第58回:スバル・レガシィ アウトバック(後編) ―ニッチなクロスオーバーが30年続いた理由と、いま終売を迎える理由―
2025.02.19 カーデザイン曼荼羅![]() |
デビュー30周年という節目の年に、日本から姿を消そうとしている「スバル・レガシィ アウトバック」。ニッチなコンセプトのクロスオーバーは、なぜ息の長いモデルとなれたのか。そしてなぜ、終売を迎えようとしているのか。カーデザインの識者と考えた。
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昔は中途半端だった?
清水草一(以下、清水):ちょっとアウトバックの歴史をおさらいしたいんですけど、初代アウトバックのベースは、2代目の「レガシィ ツーリングワゴン」ですよね?
渕野健太郎(以下、渕野):そうですね。国内向けは「グランドワゴン」って名前でしたけど。
清水:僕は、当時はそのグランドワゴンより、ツーリングワゴンのほうが全然かっこよく見えたんです。グランドワゴンは、余計なものがくっついてるとしか思えなかった。
webCGほった(以下、ほった):なんという荒野に対する理解のなさ(笑)。
渕野:いや、それはよくわかります。
清水:例えば先代レガシィも、セダンが一番かっこいいなと思ったんです。今のはアウトバックしかないからわかんないけど。
渕野:アメリカでは売ってますけどね、セダンも。
ほった:ワタシはBPのときから、アウトバックはかっこいいなって思ってましたけど。
清水:BPって何代目?
ほった:アウトバックの3代目、レガシィだと4代目です。
清水:型式名で呼ばないでよ(笑)、わかんないから。BPのアウトバック、まったくいらないって思ってたけどね。余計なモンがついてないやつのほうが、断然よかった。
ほった:ヤレヤレですわ。
渕野:自分も最初のころは……邪道とはいわないですけど、なんか付け足し感があって、ピュアじゃないって感じてましたけど、時が流れて認識が変わりました。
ほった:時が流れて?
時代が変えたクロスオーバーの見え方
渕野:昔と違って、今はクルマの主流がSUVじゃないですか。そのなかで、アウトバックはむしろそんなに背が高いほうじゃないでしょう。もとがステーションワゴンなんで。だから、個性が前よりも際立つようになったんですよ。アウトバックの初代から3代目までのころは、まだSUVっていうジャンルが今のような在りようではなかったので、非常に中途半端なクルマに見えたわけです。
清水:そうなんですよ!
渕野:例えば1990年代初頭には、2代目「三菱パジェロ」とか「日産テラノ」、2代目「いすゞ・ビッグホーン」に2代目「トヨタ・ハイラックスサーフ」があった。輸入車だと初代「ランドローバー・ディスカバリー」に2代目「ジープ・チェロキー」って感じですね。このなかで、チェロキーだけはモノコックですけど、その他はラダーフレームのクルマでした。
それが90年代中頃になると、「トヨタRAV4」とか「ホンダCR-V」とかが出てくるわけです。あと、今回取り上げているアウトバックですね。
ほった:今に続くクルマが出てきた、スゴい時代ですよね。
渕野:ここら辺のクルマって、当時の自動車雑誌なんかを見ると、なんちゃってSUVだとか、なんちゃってRVだとかって扱いだったんですよ。昔からのクルマ好きにとっては「なんだこれは?」って感じだった。それが、今や自動車の主力になってるわけです。正直、この時期の都市型SUVたちは、すごい先見の明があったと思うんですよね。
ただ面白いのは、RAV4やCR-Vは時代とともにすごく形が変わったでしょ? でもアウトバックはあんまり変わってない。前回は「モデルチェンジしても、どこが違うかわからない!」なんて言われちゃいましたけど、これもまたスゴいこだわりで、長く続いてるのは大したもんだと思うんです。
ほった:確かに。
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片側+30mmの恩恵
渕野:それに、アウトバックだけじゃないんですよ。1994年に初代アウトバック(日本名:グランドワゴン)が出たんですけど、1995年には「インプレッサ グラベルEX」っていうのが出てる。スバルって、もともとこういうのが好きなんですよ(笑)。時を経て2010年に「XV」が出て、それが「クロストレック」になって、ニッチなモデルだったはずなのに、いつの間にか主力商品に成長した。スバルって、もとのやつにちょっと付け足して魅力を増すというか、違う価値観にアレンジするのがうまいんです。
ほった:アウトバックみたいなクルマは、スバルの伝統芸だったわけですな。
清水:そういわれると確かにそうだし、そういうクルマの魅力がなくなったわけでもないんだよね。
ほった:クロストレックは堅調に売れてますしね。
清水:だったらやっぱり、日本で今回アウトバックが終売になるのは、北米向けにあまりにサイズを大きくしすぎたから、ですよね? 日本向けには小さいのを出してるし、もういいだろうという判断でしょう。個人的には、レガシィシリーズはグンと大きくなったことで、先代からとてもかっこよくなったと思うんですけど。
ほった:はいはい。
清水:レガシィでいうと、日本では4代目が傑作っていわれてますよね。いろんな意味で。
ほった:いわゆるBL/BPですね(笑)。
清水:その次の5代目が、中途半端に肥大化したみたいで一番ダメだった(笑)。ところが次の6代目は、完全に北米狙いになったことでさらに大きくなって、おおらかでとてもかっこいいクルマになった。日本じゃ大きすぎたけど、プレス試乗会でデザイナーの方から、「左右で30mmずつデザインしろが増えたので。それだけもらえたら、デザイナーとしてはもう極楽です!」みたいなことを聞いたんです。そうなのかぁ、なるほどと思ったわけなんですが。
渕野:いや、片側30mmはものすごくデカいですよ。
ほった:ちなみにですが、アウトバックはこのときのモデルチェンジで、全幅が1820mmから1840mmになったんですけど、「B4」とツーリングワゴンは1780mmから1840mmにアップしています。
清水:アウトバックはもとから大きかったから、それほど全幅は変わらなかったんだね。あの世代だと、俺はセダンが一番かっこよく見えたな。肩幅が広くなった感じで。
渕野:はいはい。
清水:アメリカンでおおらかで、それでいて精緻みたいな。
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おおらかなクルマは日本で理解されない?
渕野:車幅のデザインしろは、+10mmでも全然違います。ふくよかさっていうところが大きく変わってくる。
ほった:んでも、歴代で一番ダメっていわれた5代目レガシィだって、皆大好きな4代目からすんごいボディーを拡幅していますよね。
渕野:そうなんですけど、あれは大きさを強調しようとして、車体の前後が絞れてないんですよ。以前、「『R34スカイライン』は全然車体が絞れてない」っていう話をしましたけど(参照)、そういう感じなんですよね。それでワイドさを強調しているんだけど、そのぶんハコ感が強いイメージになってしまった。それに対して6代目は、広がった幅を表情をつけるのにも使ってるんです。それでだいぶ変わったんじゃないかな。
ほった:なるほどですねぇ……。この辺の話を整理すると、レガシィのデザインは5代目(アウトバックでは4代目)で一度ガクッと落ちたけど、その後はデカさを武器にカッコよさを取り戻して、しかし日本では、そのデカさがアダになって終売に至ったと、そんな感じですかね。
清水:ジレンマだねえ。
渕野:とにかく自分としては、レガシィ アウトバックの終売で、すごくいいクルマがまたひとつなくなるって思ってるんですけど、どうですか?
清水:いや、そんなにいいクルマとは知りませんでした(笑)。
ほった:多分みんな、あんまり取材もしてないですからね。
清水:乗ってないんだよね。俺は1回だけ試乗したけど、走りがものすごくフツーだなとしか思わなかった。
ほった:日本のジャーナリストが褒めそやすジャンルのクルマではないでしょう。だってみんな、アメ車が嫌いだから(怒)。
渕野:確かに、アメリカの香りがしますからね、アウトバックは。そこがまたいいんだけどな、ゆるい感じが。デザインも含めて、あんまり突き詰めてない感じが非常にいい。だからクルマ好きじゃない人のほうが、むしろよさがわかる。クルマよりキャンプが好きだったりする人のほうが、わかってるんだと思いますよ。
ほった:でしょうねぇ。ワタシの通勤経路(中島飛行機武蔵野製作所跡地→三鷹駅間)にも2軒、BP世代のアウトバックと最終型のアウトバックを持っているお宅があるんですけど、すごく豊かな感じがしてイイんですよ。ただ最終型のアウトバックって、そうして見ててもとにかくデカいんですよね。都内だと取り回しが大変そう。
渕野:そうなんですよ。自分のアウトバックは5代目でしたが、保育園のお迎えとか、そういう用途に使うにはちょっとデカすぎると思って、クロストレックに乗り換えたんです。
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日本のためのスバル車もありますので……
清水:今、アメリカで一番売れてるスパル車は、フォレスターかな?
渕野:クロストレックとフォレスターとアウトバックが3本柱じゃないですかね。
ほった:えーと(ネットで調べる)。2024年のアメリカの数字ですけど、1位がクロストレックで18万1811台、2位がフォレスターで17万5521台、3位がアウトバックで16万8771台ですね。
清水:アウトバック、向こうではやっぱり人気なんだねぇ……。てか、クロストレックがアメリカでそんな売れてんの!? 結構ちっちゃいクルマだけど。
渕野:導入当時のクロストレック……日本では初代XVにあたるモデルですが、とにかくアメリカでは、そんなに期待されてないクルマだったみたいですよ。でも出してみたらすごく売れた。
清水:あれはかっこよかったですよね。インプレッサより。
ほった:ちなみに、スバルの年間販売を見ると、米国だけで66万7725台です。
清水:スバル全販売台数のアバウト7割!
渕野:そう考えると、日本市場はやっぱちっちゃいですね。
ほった:「もっと日本のほうを見ろよ!」って言ってるユーザーに対して、ワタシはポンと、「この現実を見ろよ」と肩をたたいて差し上げたい。
清水:それにさ、ちゃんと「レヴォーグ」とかレイバックとか、日本向けのクルマも出してくれてるし。
渕野:だけどやっぱり、アウトバックは残しておいてほしかったな。
清水:それはゼイタクすぎる気がします(笑)。
渕野:レヴォーグあたりが限界なんですかね、国内では。
ほった:サイズ的にそうでしょう。
清水:そもそも渕野さん自身が、デカさを理由にアウトバックからクロストレックに乗り換えたわけで!!
渕野:そうですね。じゃ、レイバックをアウトバックにしてください……(全員笑)。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=スバル、トヨタ自動車、本田技研工業、三菱自動車、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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