第68回:スバル・フォレスター(後編) ―これはSUVにあらず! 機能重視の伝統が生んだ独創のデザイン感覚―
2025.05.07 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
これはもはやSUVではない!? 現在、話題沸騰中の新型「スバル・フォレスター」の造形を、カーデザインの識者と考察。機能重視の伝統が生んだスバル特有のデザインバランスとは? 国内外にファンを持つ、“スバルで一番スバルらしいクルマ”を掘り下げる!
(前編に戻る)
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新型の顔が“強く”見える理由
webCGほった(以下、ほった):……ということでですね。前回、清水さんより「新型フォレスターの顔はケムンパスである」という斬新な学説が提唱されたわけですが。
渕野健太郎(以下、渕野):ケムンパスかどうかはさておき(笑)、新型フォレスターのフロントまわりは、立体の強さが出ています。ショールームで見たら、ヘッドランプがボディーとほぼツライチなんですよ。これまでのスバル車は、色んな要件もあってこうはなっていなかった。それが今回は、顔全体がツルッとなったわけです。「レンジローバー」的っていうか、フロントの面構成がシンプルなんですね。昔のスバル車って、グリルとバンパーとランプがそれぞれ独立した立体構成だったんですが、新型フォレスターはほとんどひとつの塊みたいになっている。それがすごく、“強さ”を生んでいるんですよ。
清水さんの言う「顔の強さが気になる」というのは、実はグラフィックの話じゃなくて、立体的な強さがありすぎるっていうことなのかもしれないですね。
清水草一(以下、清水):いや。そんな深い話じゃないです(笑)。あくまでグラフィックの印象の話で。とにかく、グリルとヘッドランプの間に、ちょっとでもボディー色があったらなぁと。
渕野:いやいや。そうはいっても、無意識のうちに立体としての強さも感じているんですよ、多分。でも一応、清水さんご希望のフロントデザインを見てみますか。(新型フォレスターのフロント写真をちょっと加工)……こういうことですよね?
清水:うわー。そこにちょっとボディー色があるだけで、だいぶ違う! 全然好みになりました。
渕野:こうやって、ちょっとのことで変わるんですよね、顔まわりって。だからこそ難しいんですよ。顔のデザインって。
清水:本当にちょっとのことですね。それでこんなに印象が変わる。
ちょっとしたことで変わるフロントの印象
清水:やっぱりシャープじゃないですか? これのほうが。
渕野:いや~。でもここ(グリルとヘッドランプ)はつながってていいじゃないですか?
清水:いやいやいや、断然こっち!
ほった:そんなことないでしょう。違いはわかりますけど、断然よくなったとは思えないなぁ。
渕野:そうですよね(笑)。
ほった:なんか、ちまたでよく見る顔になっちゃった。
清水:いや、こうすると全体のバランスがとれるんだよ!
ほった:自称「顔しか見てない派」の清水さんが、全体のバランスを口にするなんて!
渕野:(新型フォレスターの加工写真と、従来型フォレスターの写真を見比べつつ)……というか、清水さんはスバルの六角形グリルを残してほしかったんですかね?
清水:それもあるかも。あれは古典的で好きですよ。「レヴォーグ」の顔とか。
渕野:そうか。そういった人にとっては確かに、新型はちょっとグラフィックが変わってますからね。なんにせよ、この狭い箇所をボディー色にしたぐらいで、これだけ雰囲気が変わるわけですから。やっぱりデザインはシビアだってことなんです。
清水:じゃぁ、自分で塗りますか(笑)。
ほった:えー。やめたほうがいいですよ。世のDIYカスタムカーを見てくださいよ。素人が手ぇ出してよくなってた例なんか、ろくにないんだから!
清水:ちょこっと色を塗るくらいならそうでもないよ。オレ、これまでも何度かやったけど、うまくいったと思ってる(笑)。カーマニアとして、与えられたクルマに乗るだけってなんか悔しいじゃない。トライしたいんだよ! ダメだったら戻せばいいじゃん。まずボディー色のテープ貼ってみるとかさ。とにかく、ほんのわずかなことでこんなに変わって見えるっていうのは、本当に興味深い。
タイヤがもう少しでも大きければ……
渕野:とにかく、フロントまわりの強さに対して、ほかが追いついてないっていう意見は、わからなくはないです。自分としては、タイヤだけ、もうちょっとデカくしてくれればいいんですけど(笑)。
清水:クルマが出来上がっちゃった以上、それはムリでしょうけど、顔をちょこっと変えるのは、マイナーチェンジで全然可能でしょう。
ほった:ていうか、ワタシはタイヤが多少ちっちゃくても、デザインがいいって思えるクルマは、いくらでもある気がするんですけど。それこそ、ご先祖さまの3代目「フォレスター」とか。
渕野:あれはタイヤとボディーとで、ボリュームの調整がとれているからでしょう。クルマのデザインって、やっぱりタイヤがひとつの基準なんですよ。通常はタイヤのボリューム、要はタイヤサイズに対して、ボディーのほうのボリュームを調整するんです。
だけど最近のフォレスターの場合、それをやってしまうとボディーのほうがちっちゃく見えてしまう。ライバルの見栄えや主戦場である北米の環境を考えると「タイヤは小さく見えても構わないから、とりあえずボディーをデカく見せよう」と割り切っているんでしょうね。最近のスバル車は大体そういう傾向なんです。でもデザイナーとしては、車体の大きさに対してもうちょっとだけタイヤの外径を大きく、トレッドの幅も、もうちょっと広げてくれるとうれしいなと。
ほった:うーん。サイズもですけど、タイヤがボディーからだいぶ引っ込んでついていることも問題なんじゃないかな。
清水:どっちにせよ、タイヤをそういう風にカッコよくするのは、機能面で大きなマイナスになるでしょ?
渕野:それはありますね。
清水:顔の一部を塗るだけだったら本当に簡単ですよ。顔の押し出しが弱くなって、そのぶん「タイヤがちっちゃいな」みたいな感じも減るんじゃないかな。
ほった:まだその話ですか(笑)。そもそもこの前のスバルデザイン回で、「最近スバルデザインは小技を使いすぎてる」みたいなことを言ってたのは、清水さんじゃないですか(参照)。それがなんで、今回はわざわざそこだけ塗るような小技を入れたがるんです?
清水:これは小技じゃないよ。部分的に元に戻すだけだから。逆に、新型の顔のほうが小技っぽく感じるわけ。
ほった:どー考えても逆でしょ。ワタシはこのドカーン! とした顔のほうがスケールがデカくていいですけどね。おおざっぱで、おおらかで。
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SUVではなく「フォレスター」として見るべし
清水さん:……なんか、こうして話をしていると、ほった君は「フォレスターだし、これでよくない?」って感じで考えてない?
ほった:え? そんなもん、もちろんそうですよ。ワタシは実家に3代目があって、親父がぶつけて壊しちゃうまでお世話になってきましたからね。「フォレスターってこういうもの」ってイメージが脳幹に刻まれてるんです。だから、ちょっとプロポーションがおかしくても、タイヤがちっちゃくても、見る角度で“強さ感”が違っていても無問題。それより「スバルは今回も、フォレスターのキモを外さなかったな。ヨカッタヨカッタ」って気持ちのほうが強いです。
渕野:根強いファンがいますよね、フォレスターには。
ほった:おそらくアメリカにもファンはたくさんいますよね。
渕野:いるいる、いるいる(笑)。だからこれは、SUVっていうよりフォレスターっていうカテゴリーで見たほうがいいんです。
清水:そういうイメージは初耳です。逆に、フォレスターってそんなに独自のイメージが強いの?
ほった:強いですよ。なにをいまさら(笑)。
渕野:そうなんですよ。フォレスターって、洗練度よりも機能とか、そういうところを主軸に考えてて、それがスバル車のなかでも一番強い。ある意味、一番スバルっぽいクルマなのかもしれない。
ほった:デザイン的にも、「これって機能重視でつくられてるんだ」っていうのが、それとなく伝わってくるぐらいのあんばいなのが、フォレスターのいい味だと思うんですよ。あざといアウトドア演出とか、そういうのじゃなくて。
渕野:リアシートに乗っても、すっごい開放感ですからね! ほかのSUVと比べて。リアゲートもあそこまで広くて、荷物も載せやすい。「ダイハツ・タント」じゃないけど、そういう機能重視のパッケージなんですよ。だから、そういう目で見たほうがいいかもしれない。
清水:考えたこともなかった(笑)。
渕野:ただ、そうはいってもさっきのタイヤの話とか、リアの絞り込みの話とか(前編参照)……。カー・オブ・ザ・イヤーの回でも話しましたけど(その1、その2)、要は機能とデザインってバランスの関係なんですよ。そこでマツダはプロポーションを重視してて、スバルは機能を重視してる……。ただスバルも、そのバランスをもうちょっとだけプロポーションのほうに振ってくれてもいいかなと(笑)。もうちょっとだけバランスを整えると、またぐっと魅力が高まりそうな気はするんです。
清水:僕としてもね、顔をちょっとイジってくれれば(全員笑)、特に文句はないです。
ほった:まだ顔ですか!
清水:一生顔にこだわるよ!
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=スバル、田村 弥、池之平昌信、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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