第96回:レクサスとセンチュリー(後編) ―レクサスよどこへ行く!? 6輪ミニバンと走る通天閣が示した未来―
2025.12.17 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
業界をあっと言わせた、トヨタの新たな5ブランド戦略。しかし、センチュリーがブランドに“格上げ”されたとなると、気になるのが既存のプレミアムブランドであるレクサスの今後だ。新時代のレクサスに課せられた使命を、カーデザインの識者と考えた。
(前編に戻る)
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これから「LS」はどうすればいいの?
webCGほった(以下、ほった):前回のセンチュリーに続き、今回はレクサスのお話ですね。センチュリーがトヨタグループのハイエンドブランドとして独立したとなると、じゃあレクサスはどうなっちゃうの? っていう。
渕野健太郎(以下、渕野):ショーファーカーとか、これまでレクサスの最上級車種「LS」が担ってきた役割の一部を、センチュリーも担うことになりますよね。そうなると、今後のLSのあり方はどうなるんだろう? ……っていうのが、こないだのジャパンモビリティショー(以下、JMS)での、彼らのテーマだったんじゃないかと思うんですよ。
ほった:LSって名前に付くクルマが、3台も出てましたもんね。プレゼンでも、「このLSは“ラグジュアリーセダン”じゃなくて“ラグジュアリースペース”だ!」とか言ってたし、LSは特定のクルマを指す車名じゃなくて、「レクサス内の最上位」っていう、立ち位置を示す符号になっていくのかも。
渕野:実車の印象はどうでした? 6輪車も含めて。
清水草一(以下、清水):いやー、6輪車には本当に感動しました。とにかく6輪であることに感動ですよ! まさか『サンダーバード』のペネロープ号が出現するとは!
ほった:ワタシはピンとこなかったですね。6輪だったって以外、もうクルマの形を思い出せないし。アイデアが尽きたんで、奇抜なところに手を出したってだけじゃないかと。
清水:なに言ってんの! これは革命でしょ!
ほった:いーや、ハッタリでしょ! ミニバン6輪にして、どんな利点があるんすか!?
清水:そんなの『webCG』の記事に書いてあるじゃん。リアタイヤの直径を小さくすることで空間をかせぐって(参照)。
レクサスがここまで突き抜けられた理由
渕野:確かに、タイヤハウスやリアサスペンションっていうのは、すごくシートのレイアウトとかに制約をかけるんですよ。あの小径4輪のリアタイヤの狙いは、それを取っ払うことだと思います。タイヤの上も居住スペースにできれば、ボディーを最大限広く使える。ただ、「そのメリットのために6輪にするのが、はたして割に合うのか?」と言われると、そこはわかんないですけど。
清水:いや、理屈はどうでもいいんです。6輪にしてくれればそれでイイ。これでスムーズに曲がるためには複雑な機構が必要ですよね? たぶん。まるでロケットの移動発射台みたいじゃないですか!
ほった:わざわざそこまでやる必要ないでしょ!
渕野:まぁ確かに、6輪って昔から説得力があるようでないようで……。デメリットも容易に想像がつきますしね。ただ、このショーカーに関していえば、「レクサスの6輪車」っていうだけで強烈なメッセージを伝えられましたよね。
清水:「センチュリー クーペ」(仮)の変わったドアの開き方と並んで、タイヤの数を増やすのは、クルマを目立たせるための究極の飛び道具ですから。
ほった:まぁレクサスは一応、機能的な理由があるんだって言ってますけどね。このデカいスライドドアを開けたら、2列目と3列目の人が同時に乗り降りできるとか。
清水:そっか。それもスゴい(笑)。
渕野:そういう説明を聞いてしまうと、「トヨタのことだし、これも本気かも」って思いますよね。ほかのメーカーだったら、「絶対こんなの本気じゃない。市販化なんてないだろ」って思うのに。
清水:すごいことですよ。トランプ大統領が絶賛したキュートな小型車(軽自動車)に続いて、霞が関の6輪LSが、日本の象徴になるんですよ。世界の異観ですよ。
渕野:前回触れたセンチュリーのブランド化があるから、レクサスはLSで、こんな突き抜けた提案ができたんでしょう。
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この顔がレクサスの未来か?
ほった:続いて「LSクーペ コンセプト」ですが、これ、どうですか? ワタシはそもそも「これをクーペとか言われても」ってなっちゃって、素直に受け止められなかったんですが。
渕野:デザイナーとしては、こういうクルマは「レクサスの次のデザインはどうなるのか」っていう示唆を期待して見るんですよ。その観点からすると、サイド面全体の構成が「スポーツ コンセプト」と同じような表現になっていて、これが次世代のレクサスなんだなと思いました。ただ……この“顔”は、ちょっと弱いですね。
LSクーペ コンセプトに限りませんけど、今、電気自動車(BEV)の顔まわりをどうするかは、カーデザインにおける大きなポイントですよね。これまではグリルに頼ってきたけれど、BEVなのでグリルがなくなる。それでどうやってアイデンティティーや車格を表していくか。で、これが未来のレクサスの顔なのかと思うと、やはりちょっと弱い。BYDに近い気もします。
清水:どっかで見たことある顔と。
渕野:スピンドルグリルを立体のみで表現していますが、グリルと違って、少し離れたら見えないんですよ。これは同じ手法を取る他メーカーも同じです。逆にメルセデス・ベンツの新型「GLC」(参照)などは、BEVなのにグリルをより強調しましたよね(笑)。グリルに変わる手法があればいいのですが、そこが各メーカーの課題だと思います。
ほった:個人的には、とっとと捨てちまったほうがいいと思うんですけどねぇ……。最後はこの、「LSマイクロ コンセプト」ですね。カーデザインのくくりで論じていいのかもはなはだ疑問ですが。
渕野:ラグジュアリーな一人乗りというコンセプトはとても面白いですね。ただこのクルマ、真後ろから見たとき、大阪の通天閣みたいだと思ったんですよ。(一同爆笑)
清水:ホントだ! なんか懐かしい。
渕野:テールライトが昔のネオンサインみたいで。「LEXUS」のスペルも縦に入れてますし。
清水:あー。通天閣は「HITACHI」でしたっけ?
渕野:そうそう。あの感じです。書体もなんか、昭和の感じがするし。
清水:いやー、これもいいな。全体のフォルムも超個性的でひかれました。いずれ足が弱くなったら、これに乗って自動運転で外出したい。
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実に見事なレクサスとセンチュリーの対比
清水:こうして見ると、JMSのレクサスは最高でしたね!(笑)
渕野:やっぱり6輪のインパクトがすごかったでしょう。大人もそうだけど、あれには子供も「おやっ?」て思う。そういう目線で考えると、JMSでは、他社ももうちょっとバカみたいなことをやってもいいのかなと思いました。
ほった:バカみたいなこと(笑)。
渕野:理詰め理詰めでやってるところがほとんどなので。元自動車メーカーの人間としては、こういうショーは一般受けしてほしいんですよ。クルマ好きだけじゃなくてね。そのためのショーだと考えると、LSの6輪車はよく考えられていました。
それに、恐らくはセンチュリーをブランド化して、センチュリー クーペを出したから、レクサスではこういうことができたんだと思います。トヨタの頂点が6輪のミニバンだってなったら、抵抗感もあったでしょうから。レクサスとセンチュリーは見事な対比になっていて、やっぱりトヨタはうまいなと思いましたよ。
ほった:ザ・高級車な路線はセンチュリーに任せて、レクサスはもっと自由な発想でいこうぜってことですね。
清水:そもそも今回のトヨタ、よくこれだけ力の入った作品をズラっと並べましたよね。関係する社員たちはどうなってるんだろうって、心配になりましたよ(笑)。
渕野:トヨタは、例えばランクルのトヨタ車体とか、トヨタ自動車東日本とか、関連会社がいっぱいありますから。ほかのメーカーがカスカスの人材をフル回転させてるのとは違うと思います(笑)。それでもまぁ、今回は相当に大変だったでしょうけれど。
清水:こんなこと2年ごとにやってたら大変すぎる!
ほった:パーソナルモビリティー系もガチでしたしね。ホンダのお株を奪う勢いで。
渕野:そこらへんも専任でやってる人がいるんでしょう。大きな会社ですから。
ほった:確かに、私見は別にするとJMSの主役は確実にトヨタでしたね。「IAAモビリティー」でのドイツメーカーの展示と比べても、JMSでのトヨタの出展のほうがスゴかったんじゃないかな。ブースの規模でも、展示の提案性でも。やっぱ、会社の規模とエンジンの排気量は、デカいに限りますなぁ。
渕野:同感です。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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