フェラーリ・プロサングエ(4WD/8AT)
“跳ね馬”以外の何者でもない 2023.03.08 試乗記 フェラーリ初の4ドア・4シーターモデル「プロサングエ」に、冬のアルプス山麓で試乗。一部から「SUVの跳ね馬なんて……」と懐疑的な目で見られていたマラネッロの新作は、V12フェラーリの血統を確かに受け継ぐ、由緒正しきスーパースポーツに仕上がっていた。拡販目的のSUVなどではない
これは「812GTC4ルッソ」だ。最初の試乗を終えた私はいささか興奮気味に担当エンジニアにそう伝えた。その心は、「まるで『812』のようなスポーツカーであると同時に、『GTC4ルッソ』のように、いや、ドアが+2であるぶんルッソ以上に実用的なGTである」。
フェラーリ初の4ドアモデル。そのうえ、マラネッロは決してそうは言わないけれど、世間からすればどこからどう見てもSUVスタイルだ。他のスポーツカーブランドと同様、ついにフェラーリも台数倍増作戦に打って出たか。さめた口調でそうおっしゃる向きも多かった。とはいえ単純な拡販目的のSUVではないことは、そして他に例のないナカミを持ったモデルであることは、その全容が明らかになった時点で筆者も指摘しておいた(参照)。
まず生産台数は、この手のモデルとしては異例に少ない。つまり台数拡大を狙ったモデルではない。誤解を恐れずに言えば、それこそ「FF(フェラーリ・フォー)」やGTC4ルッソの代わり、だったのだ。さらにメカニズムを注視すれば、V型12気筒を完全にフロントミドに置き、新たなサスペンションシステムを導入している。それゆえ筆者は、「たとえハイトなワゴンスタイルであっても、フェラーリらしく走るのだ」というマラネッロの主張を、まずはそのまま受け止めておいたのだ(車両概要を詳しくご存じでないという方は、読み進める前にぜひ、過去の記事を参照してほしい)。
もっとも、そんなことは実際に乗ってみなきゃ分からない。物理的にハイトがあって重いSUVスタイルのモデルを、どこまでスポーツカーらしく、いや、フェラーリらしく走らせることができているのか。そして、既存のライバルたち=このビジネスモデルに先鞭(せんべん)をつけた「ポルシェ・カイエン ターボGT」や、マイチェンなった「ランボルギーニ・ウルス ペルフォルマンテ」、さらには最もスポーツカーらしく走った「アストンマーティンDBX707」などと比べて、一体どこがどう違うのだろうか。近年、これほど試乗を心待ちにしたモデルはほかになかった。想像がつかなかったからだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
クルマの基本は「GTC4ルッソ」に似る
結論は冒頭にも記したとおりで、想像をはるかに超えて素晴らしいスポーツカーに仕上がっていた。その走りは確かにSUVなどではもはやない。それどころか、4ドアで視線が高いことを除くと、以前にも増してフェラーリらしい走りを見せてくれた。オーダーできた人が「296GTB」のとき以上にうらやましく思えてきて……。
国際試乗会は2月の上旬にスキーリゾートとして有名な北イタリアはトレント自治県のピンツォーロで開催された。ほとんどスイスかオーストリアかという北部で、真冬の試乗会。当然ながらコンディションは悪い。あえて狙ってこの地で開催するのだから、マラネッロには自信が相当あったのだろう。
一方で、それゆえ少々残念なこともあった。当然ながら試乗車には、ウインタータイヤ「ミシュラン・パイロットアルペン」が履かせてあったのだ。この時期のイタリアは、たとえ路面状態が良くても、地域のレギュレーションでウインタータイヤの装着が義務づけられている。ドライ路面での乗り心地やグリップ性能に関しては、また時期と場所をあらためてテストしたいと心から思った。
2022年、マラネッロで開催されたプロダクトプレビューにおいてエンジニアから詳しい話を聞いた筆者は、基本的にはGTC4ルッソを4ドアにして車高を上げたような走り味のクルマだろうと予測していた。ボディーサイズも全高以外ほとんど変わらない。パワートレインの配置やシステムもよく似ている。というか、その進化版だ。ルッソと同じくアッセンブリー工場の2階で生産されるということも分かった。マラネッロが決してSUVとは言わないのだから、それはきっと背の高いルッソのような走りを見せてくれるのだろう、という程度には期待していたのだった。
ピンツォーロのリゾートホテルでブルーメタリックのプロサングエを借り出し、マドンナ・ディ・カンピーリオへと向かうワインディングロードを駆け登りながら、心の中でこうつぶやいていた。「背の高いルッソだなんて言ってごめんなさい。あなたはもう812レベルです」。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
その走りは2座のV12モデルを思い出させる
走りだしでのマネッティーノは、ドライブモードが「コンフォート」、サスペンションの制御が「ミディアム」(レバーボタンを押すとダンピングがさらにソフトになる)となっており、この状態でのドライブフィールはルッソよりもはるかに上質なものだったが、「それも余裕のあるサスストロークと新たなダンピングシステムを考えたなら当たり前かな」と思っていた。ワインディングロードに差し掛かり、それほど滑りやすい状況でもないと分かったので、そこからマネッティーノを、それぞれ「スポーツ」「ハード」へと変更してみれば、なんとその走りは、まるで「ローマ」、いや、「812スーパーファスト」のように変貌したのだ。
視線は当然ながら高い。けれどもそれ以外の走りの感覚は、12気筒のFRスポーツカーだった。それも4座どころじゃない。より敏しょうな2シーターモデルのようだ。ホイールベースこそ2+2モデルと同じだが、車高が高くなってしかも足もとの動きがアクティブサスペンションにより絶妙に制御されているから、相対的に全長が短く感じられる。この全体の動きもまた、2シーターモデルと似ているように思えた理由のひとつだろう。
完全なるフロントミドシップ+トランスアクスルレイアウトと、足まわりの制御、さらには視線の高さからくるコーナーの見通しのよさとが相まって、信じ難いことにすこぶるつきのハンドリングマシンでもあった。大型のSUVに特有のロール感覚は皆無。その代わり、背の低いスポーツモデルと同種の程よい浮き沈みをみせる。伸び/縮みともにその様子は背の低いモデルとほとんど変わらない。それゆえ他のSUVとはまるで次元が違った。DBXの乗り味がまだ少し近いかもしれないが、それでも2シータースポーツカーのように感じることなどなかった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
心を揺さぶる6.5リッターV12の咆哮
シャシー制御も素晴らしい。テストの途中で積雪路やアイスバーンも経験したが、さほど気にすることなく本能に任せて、つまりはドライ路面とほとんど同じような気分で、初めての峠道でも攻め込んでいけた。狭い山坂道でも平気だったことなどは、車体との一体感のたまものだろう。
なにより6.5リッターV12自然吸気エンジンの力強さとフィール、そしてサウンドに、クルマ好き、運転好きの心は激しく揺さぶられた。実用域重視のトルク設定にチューンされたとはいえ、812コンペティツィオーネ由来のエンジンは軽々と8000rpmオーバーまで吹け上がり、その間、どの領域においてもクルマ好きを小躍りさせるような音と振動を発し続けてくれる。もうそれだけでも他のSUVとは一線を画するというのに、その走りがまるでスポーツカーというのだから……。
4ドアで背の高いスタイルがそもそもダメというならば仕方ない。けれども、そうではなくて「フェラーリのSUVだから許せない」という方こそ、まずは試してみてほしい。乗ってみればプロサングエがSUVではないことに感動することだろう。何度でも言おう。身も心もフェラーリだ。
(文=西川 淳/写真=フェラーリ/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
フェラーリ・プロサングエ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4973×2028×1589mm
ホイールベース:3018mm
車重:2033kg(乾燥重量)
駆動方式:4WD
エンジン:6.5リッターV12 DOHC 48バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:725PS(533kW)/7750rpm
最大トルク:716N・m(73.0kgf・m)/6250rpm
タイヤ:(前)255/35R22(後)315/30R23(ミシュラン・パイロットアルペン5 SUV)
燃費:17.3リッター/100km(約5.8km/リッター WLTPモード)
価格:4760万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆「プロサングエ」の電動化プランは? フェラーリ・ジャパンの社長を直撃インタビュー!
◆4ドアのスーパースポーツ「フェラーリ・プロサングエ」日本上陸
◆“ドル箱SUV”にあらず! 「フェラーリ・プロサングエ」誕生の真意に迫る
◆フェラーリ初の4ドアスポーツ「プロサングエ」がデビュー

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2026.2.23 「BYDシーライオン6」は満タン・満充電からの航続可能距離が1200kmにも達するというプラグインハイブリッド車だ。そして国内に導入されるBYD車の例に漏れず、装備が山盛りでありながら圧倒的な安さを誇る。300km余りのドライブで燃費性能等をチェックした。
-
アルファ・ロメオ・トナーレ ハイブリッド インテンサ(FF/7AT)【試乗記】 2026.2.22 2025年の大幅改良に、新バリエーション「インテンサ」の設定と、ここにきてさまざまな話題が飛び交っている「アルファ・ロメオ・トナーレ」。ブランドの中軸を担うコンパクトSUVの、今時点の実力とは? 定番の1.5リッターマイルドハイブリッド車で確かめた。
-
トライアンフ・トライデント800(6MT)【海外試乗記】 2026.2.20 英国の名門トライアンフから、800ccクラスの新型モーターサイクル「トライデント800」が登場。「走る・曲がる・止まる」のすべてでゆとりを感じさせる上級のロードスターは、オールラウンダーという言葉では足りない、懐の深いマシンに仕上がっていた。
-
マセラティMCプーラ チェロ(MR/8AT)【試乗記】 2026.2.18 かつて「マセラティの新時代の幕開け」として大々的にデビューした「MC20」がマイナーチェンジで「MCプーラ」へと生まれ変わった。名前まで変えてきたのは、また次の新時代を見据えてのことに違いない。オープントップの「MCプーラ チェロ」にサーキットで乗った。
-
アルファ・ロメオ・ジュリア クアドリフォリオ エストレマ(FR/8AT)【試乗記】 2026.2.17 「アルファ・ロメオ・ジュリア」に設定された台数46台の限定車「クアドリフォリオ エストレマ」に試乗。アクラポビッチ製エキゾーストシステムの採用により最高出力を520PSにアップした、イタリア語で「究極」の名を持つFRハイパフォーマンスモデルの走りを報告する。
-
NEW
右も左もスライドドアばかり ヒンジドアの軽自動車ならではのメリットはあるのか?
2026.2.25デイリーコラム軽自動車の売れ筋が「ホンダN-BOX」のようなスーパーハイトワゴンであるのはご承知のとおりだが、かつての主流だった「スズキ・ワゴンR」のような車型に復権の余地はないか。ヒンジドアのメリットなど、(やや強引ながら)優れている点を探ってみた。 -
NEW
第950回:小林彰太郎氏の霊言アゲイン あの世から業界を憂う
2026.2.25マッキナ あらモーダ!かつて『SUPER CG』の編集者だった大矢アキオが、『CAR GRAPHIC』初代編集長である小林彰太郎との交霊に挑戦! 日本の自動車ジャーナリズムの草分けでもある天国の上司に、昨今の日本の、世界の自動車業界事情を報告する。 -
NEW
ルノー・グランカングー クルール(FF/7AT)【試乗記】
2026.2.25試乗記「ルノー・グランカングー」がついに日本上陸。長さ5m近くに達するロングボディーには3列目シートが追加され、7人乗車が可能に。さらに2・3列目のシートは1脚ずつ取り外しができるなど、極めて使いでのあるMPVだ。ドライブとシートアレンジをじっくり楽しんでみた。 -
NEW
第862回:北極圏の氷上コースでマクラーレンの走りを堪能 「Pure McLaren Arctic Experience」に参加して
2026.2.25エディターから一言マクラーレンがフィンランド北部で「Pure McLaren Arctic Experience」を開催。ほかでは得られない、北極圏のドライビングエクスペリエンスならではの特別な体験とは? 氷上の広大な特設コースで、スーパースポーツ「アルトゥーラ」の秘めた実力に触れた。 -
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2026.2.24試乗記ボルボの電気自動車「EX30クロスカントリー」に冬の新潟・妙高高原で試乗。アウトドアテイストが盛り込まれたエクステリアデザインとツインモーターからなる四輪駆動パワートレイン、そして引き上げられた車高が織りなす走りを報告する。 -
エンジニアが「車検・点検時に注意すべき」と思う点は?
2026.2.24あの多田哲哉のクルマQ&Aすっかりディーラー任せにしている車検・点検について、ユーザーが自ら意識し、注視しておくべきチェックポイントはあるだろうか? 長年トヨタで車両開発を取りまとめてきた多田哲哉さんに意見を聞いた。





















































