第90回:これぞニッポンの心! 軽自動車デザイン進化論(前編)
2025.11.05 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
新型の「ダイハツ・ムーヴ」に「日産ルークス」と、ここにきて新しいモデルが続々と登場してきた軽自動車。日本独自の規格でつくられ、日本の景観を変えるほどの販売ボリュームを誇る軽のデザインは、今後どのように発展していくのか? 有識者と考えた。
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こういうクルマは今までなかった?
webCGほった(以下、ほった):今回のお題は、日本人の心こと軽自動車のデザインについてです。なんか「IAAモビリティー」のとき(その1、その2)と比べると、めちゃめちゃ癒(い)やされません?
清水草一(以下、清水):癒やされるよね~。無駄にフェンダーが張り出してないし。
ほった:軽は張り出せません(笑)。全幅が1.48mを超えちゃイカンので。
渕野健太郎(以下、渕野):最近登場した軽というと……まずはダイハツ・ムーヴですね。ムーヴは10年半ぶりぐらいのフルモデルチェンジだったんですよ(参照)。で今回、スライドドアを付けましたと。
ほった:構造的にはほぼ「ムーヴ キャンバス」ですね。
渕野:軽自動車の車種の分け方って独特で、細分化されてるじゃないですか。でもよく考えると、ムーヴみたいなスタイリッシュ方向のスライドドア車って、なかったんですよ。
清水:スタイリッシュ……ですかねコレ?
渕野:それだけでも独自性があるのかなと思いますけど、個人的には、ムーヴ キャンバスのほうが好きなんです。プロポーション自体に特徴があって。
清水:私も大好きですよ! フォルクスワーゲンの「ID. Buzz」よりキャンバスでしょ!
ほった:話がそっちにいきます?
渕野:それに対してムーヴは一般受けを狙っているので、コンサバというか、乗用車ライクなデザインになってます。
清水:そーか、これは乗用車ライクなのか。軽のスタンダードが、いわゆる乗用車から大きく離れて久しいんで、わかんなくなっちゃってた。
渕野:フロントガラスがかなり寝てますし、リアゲートガラスを立たせて、クオーターガラスをピックアップさせて、できるだけキャビンを小さく見せるようにしていますよね。そういうところが、軽自動車の枠内で可能な限りカッコよく、乗用車ライクにしようとしている点なんです。ただ、ちょっとコンサバすぎるかな。自分がターゲットユーザーではないのでアレですけど、個人的にはムーヴ キャンバスとかに比べると、決め手に欠けるデザインという気もします。
コンサバなカッコよさの是非を問う
渕野:皆さんはどうですか? 新型ムーヴについては。
清水:軽ユーザーの端くれとして言わせていただくと、ムーヴのデザインは戦隊ヒーローものですね。これがカッコいいっていう感覚が、なんとも懐かしい。否定してるわけじゃないですけど、自分としては、これは買えません。顔はゴレンジャーで、お尻は謎の魔人って感じですから。
渕野:そうだったんだ(笑)。
清水:古典的すぎるカッコつけ感がカーマニアにはキツイ。もうちょっとシンプルにしてくれたらよかったんだけど。
ほった:多分感じてることは一緒なんですけど、ワタシは解釈が真逆ですね。新型ムーヴは長ーくお客さんを待たせちゃったわけですから、このクルマを求めている人たちのことを、すごくしっかり意識してデザインしたんだろうと思います。軽って、“ファン”というのとも違うけど、ひとつの車種を何台も乗り継いでる岩盤支持層がいるじゃないですか。そういう人からすると、ムーヴって多分、これでドンピシャなんですよ。
清水:そうなのかなぁ。
ほった:そうなのです。しかも、新型はリアドアがヒンジ式からスライド式になったでしょ。これで意匠まで今までと違うものにしたら、本当にムーヴじゃなくなっちゃう。それを意識してデザインしたんだと思います。徹頭徹尾、大阪風ハンサム。
清水:これ、大阪風なのね(笑)。
ほった:しかも、新型では「『カスタム』をなくした」っていうけど、実際のデザインを見ると、むしろカスタムを残して標準仕様をなくした感じですよね。そういうところからしても、こういう軽ワゴンに乗るお客さんの芯を外してない。デザイナーさんのワガママとか我がなくて、ワタシゃむしろ好印象でしたよ。
10年前の価値観でホントによかったの?
渕野:自分も、こういうデザインの難しさっていうのは、すごくわかるんです。軽のお客さんは、こういうクルマを欲してる方が多いと思いますし、デザイナーのエゴでやってる感じはまったくしません。これをまとめるのは大変な仕事だったと思います。ただ、前のムーヴのデビューからもう10年たっているわけじゃないですか。当然、ユーザーの世代も変わっているはずです。だから、「あの頃の価値観のままでよかったの?」というのが、ちょっと気になるんですよね。
清水:軽のデザインってどんどん前に進んでるのに、ムーヴはまだこっち側なのか! って感じですよ。
渕野:それに、ダイハツはここ2回のジャパンモビリティショーで、たくさんコンセプトカーを出して、未来を見せてくれましたよね(その1、その2)。そのどれともムーヴは全然違う。
清水:(画像を見て)うーん。典型的な理想と現実のギャップって感じですかね。
渕野:ダイハツのコンセプトカー群は、ミニマムだけどどこかかわいらしさがあって、すごくいいなと思いました。多分、会場に来ていた人も同じ印象を抱いたと思います。でも、やっぱり実際の軽のお客さんって、そういう人ばかりじゃない。その点に関しては、ダイハツはしっかりリサーチしてムーヴをこうしたんでしょう。
清水:うーん……。いや、軽のユーザーさんのクルマ選びってそんな神経質なもんなんですかね? 自分は4年前からダイハツの「タント」に乗ってますけど、どんどん軽自動車の価値観に染まっていくのを感じてます。クルマへの無駄なこだわりがなくなっていく。とにかく広くて無難なやつください、みたいな。
ほった:ええー? 軽自動車に乗ってるオーナーさんはクルマにこだわりがないっていう考え方は、違うと思いますよ。
清水:基本的には冷蔵庫選びと同じ感覚だと思うよ。ただ、冷蔵庫と違って外を走るから、ナメられたくないとか、多少はカッコつけないと、みたいな部分があるだけで。
「ムーヴ キャンバス」とのすみ分けが理由か
渕野:いや、私も軽のユーザーさんに、クルマにこだわりがないってことはないと思いますよ。特にこのムーヴあたりは、結構デザインにこだわって買ってる方が多いと思います。そのクルマが、今の時代にもこれなのかっていうのは、ちょっと感じましたけど。
清水:それは、主にディテールに関してですか?
渕野:ディテールもプロポーションもです。ただ、ムーヴ キャンバスっていうのがすでにあるので、それとの差別化も当然必要で、結果としてこうなった部分もあるのでしょう。
清水:キャンバスはホントにいいですからね。あの癒やしの世界の逆をいくと、こうなっちゃうかなぁ。
渕野:キャンバスはいいです。なかでも「セオリー」っていうモノトーンの仕様は、内装もシックですげえいい。
ほった:すげえいいですか(笑)。
渕野:すげえいいです(笑)。それに対してムーヴは……「ムーヴはこうなんだ!」っていうのはわかるけど、でも、もうちょっと昔風なカッコよさを抑えてくれたら、もっとよかったかなと。
ただ、そういうベクトルの話は置いておくと、このデザインはすごく手が込んでいます。リアでは面白いことやってるんですよ。普通はバンパーって、リアゲートより下にあるじゃないですか。でもムーヴのリアを見ると、バンパー的な張り出しをリアゲート側までもってきていて、実際のバンパーはアンダーガード的なデザインに仕立ててるんです。これは非常に興味深い処理だなと思いました。
清水:……言われてみれば。
渕野:ただ、軽自動車の寸法でやってるので、明快には見えづらいんですよね。
ほった:正直、言われなきゃ気づかないかも。
清水:フロントもサイドもそうですよね。スポーティーに見せようとして、ボディーをへこませたり盛り上げたりしてるけど、やっぱり目がいくのはグリルやヘッドライトとかのグラフィック。先代のムーヴ カスタムに比べればシュッとスマートになってるけど、自動車デザイン全体の流れからすると、昭和の進化系って言うしかない。
ほった:昭和もいいじゃないですか。
清水:いや、俺も昭和がふるさとなんだけどさ……。
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新型「ルークス」は日産久々の快作!
渕野:ただ、こうして長々ムーヴの話をしてしまいましたけど、今の軽はこういうハイトワゴンより、スーパーハイトワゴンが主流ですよね。そのジャンルだと新型日産ルークスが出ましたけど、これは皆さんどうですか?
清水:ズバリ、デザイン的には「ホンダN-BOX」の次にいいと思います。
渕野:これまでのルークスも、デザインはよくできてるなって思ったんですけど、これ! っていうキャラクター感が弱かったでしょ? 今回は完全に箱みたいなデザインになって、一部で「キューブ」みたいって言われてますよね。
ほった:2代目ですね。
清水:ついにあの傑作デザインの後継車が出たか! って思いました。
渕野:私は2代目キューブのデザインの巧みさとは異なると思っているのですが、軽の枠のなかで、できる限りのことをやっている。どこか高級感もあって、すごくよくできてますよね。最近の日産車のなかでも、かなり上位にくると思います。
清水:同感。ルークスはいいですね。
ほった:さっきのムーヴと違って、日産の軽って固定客が少そうだから、むしろフルスイングできたのかも。
清水:ルークスは、インテリアもすごくセンスいいんだよね。軽じゃナンバーワンじゃないかな。
渕野:インテリアで一番「おっ!」て思ったのは、インパネ上部から2番目のピラーを通ってルーフまで、ぐるっと枠が回されてるんですよ。これは従来のクルマにはない新しい試みです。
ほった:(画像を見て)ホントだ。こんなところでもフルスイング。
清水:ダッシュボードはシンプルかつ機能的で、機能美を感じます。スイッチ類も結構大きくてわかりやすい。
渕野:実用性もすごく考えられてますね。
ほった:日産久しぶりの快作ですね。
清水:ムーヴは買えないけど、ルークスならちょっと欲しいな。
ほった:タントから買い換えます?
清水:いやー、現実的に考えるとムリだな。値段高いし。
渕野:高いですよね。グレードとかオプションの盛り具合によっては、下手すると300万円ですか?
清水:やっぱり軽ハイトワゴンは冷蔵庫だから、使えるうちは使い倒すしかないんだよね。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=ダイハツ工業、日産自動車、向後一宏、佐藤靖彦、清水草一、渕野健太郎、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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