第31回:フリード VS. シエンタ(前編) ―独自路線を突っ走るホンダデザインの現在地―
2024.07.03 カーデザイン曼荼羅ホンダから3代目となる新型「フリード」がついに登場! 永遠のライバル「トヨタ・シエンタ」との比較を通し、日本にジャストフィットなコンパクトミニバンのデザインを、ひいては日本メーカーの双璧、トヨタ&ホンダのカーデザインの地力をつまびらかにする!
やりすぎだった「ホンダ・モビリオ」
webCGほった(以下、ほった):……というわけで、今回のお題はフリード VS. シエンタ。世界的にも珍しく、軽自動車に次ぐ“これぞニッポン!”なコンパクトミニバンの2台を激突させてみたいと思います。ちょうど新型フリードが発売になったタイミングですしねぇ(参照)。
渕野健太郎(以下、渕野):こういうコンパクトミニバンって、いかにも都市部のファミリー層向きですよね。実際、うちの近所の月極駐車場にも、フリードやシエンタがたくさん止まってるんですよ。地方より都市部のほうが、比率は高いんじゃないかな。
清水草一(以下、清水):ですよね。小回り性が高くて都会向きなので。
渕野:フリードといえばそんなコンパクトミニバンの代表車種なわけですが……皆さん、その前身って覚えてます? 「モビリオ」っていうんですけど。
ほった:えーと、2001年登場のアレですね。
清水:あれは問題作だったよなぁ。モビリオが出たとき、渕野さんはどう思ったんですか?
渕野:この頃は大学でデザインを勉強していた時期なので、こういう家電のような、プロダクトデザイン的なクルマにも理解があったのですが、今見るとやはりちょっと「やりすぎたんじゃないか?」というところは思いますね。
清水:消費者の理解もまだそこまで進んではなかったですしね。カーマニアの間でも、「ホンダは脱クルマを図ってる!」「走る冷蔵庫なんかつくりやがった!」って総スカンでした。
渕野:でしょうねぇ。
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ご先祖さまの失敗(?)を糧に
渕野:モビリオをこうして見ると、プロダクトデザイン的に機能を表現していて……まぁ「最小のサイズで最大のキャビンを」っていうのをデザイン的にも見せていたわけですけど、クルマの造形としては訴求が足りなかった。路面電車みたいなイメージを狙ったけど、消費者はそこまで割り切れていなかったんでしょう。
清水:徹底的に走らないイメージのデザインの割に、オプションでルーフスポイラーが用意されていたりして、つくり手側も割り切れてなかったと思います。スペースユーティリティーも、今思えばまだ煮詰め切れてなかった。
渕野:で、その反省からか、フリードになってからは、初代も2代目もクルマっぽいたたずまいや“流れ”を感じさせるデザインになりました。
清水:初代フリードは、テールゲートの切り方が独特で、後ろから見るとドクロちゃんみたいに上が大きい印象だったじゃないですか。あのシルエットが大好きだったんですよ。シンプルだけど個性的で、とってもいいクルマでした。
渕野:2代目も同じような雰囲気でしたけど、ちょっとキャラクターラインがくどかったと思うんですよね。これは逆に、クルマらしさを狙いすぎたイメージがありました。
ほった:確かに初代と比べると、ちょっと気張っちゃった印象ですね。
渕野:で、今回の新型は、クルマらしいたたずまいは継承しながら、モビリオ的なプロダクトデザインテイストも融合されていると思います。「最高にちょうどいいホンダ」っていうキャッチフレーズがありましたけど、まさにそういう感じになったんじゃないかな。どうですか? このデザイン。
清水:ホントにちょうどいいですよね~。
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あえて重箱の隅をつつくなら……
ほった:お2人とも、最近のホンダデザインは総じて高評価ですよね。世間のウケは厳しいですけど。
清水:もちろん。新型フリードも、「ステップワゴン」的なシンプルデザインなところがいい。カーマニアはこういうのを待ってたんだよ! もともとフリードのパッケージは究極に近かったでしょ。初代から合理性のカタマリで、ミニバン界の初代「ゴルフ」だったと思うんだ。
ほった:それは確かに。あれより前のモビリオとか「日産キューブキュービック」の3列目シートなんて、とりあえずあるだけって感じで乗れたもんじゃなかったですからね。シートアレンジもヘッドレストをひっこ抜かなきゃいけなかったりして、微妙に発展途上な感じがあった。なんというか、コンパクトミニバンは初代フリードで、ようやくひとまずの完成を見たって感じでしたね。
渕野:コンパクトだけどちゃんと3列しっかり乗れて、なおかつデザインもまとまってる。そんなところがすごく日本らしいプロダクトだし、いいカテゴリーだなと思います。
ほった:そうなんですよねぇ。……いやいや、デザインの話からずいぶん脱線しちゃいましたけど。渕野さんとしては新型フリードはどうなんですか? 口ぶりからして高評価な印象ですけど。
渕野:そうですね。以前にコラムでも書きましたけど(参照)、基本的には狙いが明快な、いいデザインだと思います。
清水:同意です。正直、究極に近いんじゃないかと思うんです。
ほった:ワタシも同じような感想ですねぇ。……カーマニアが3人そろってベタボメするのって、なんかちょっと気持ち悪いけど(笑)。
清水:あえて言うと、フロントウィンドウは寝すぎかな?
渕野:それは感じますね。リアが結構立ったデザインなので、そのぶんフロントの傾斜が強調されてしまうんですね。実はフロントウィンドウの傾き自体は、先代とそんなに変わらないんですよ。新型ではリアピラーがかなり真っすぐな格好になったので、そのぶん寝て見えるようになったって感じで。デザインのバランス的には、もっとAピラーを立たせてもよかったかもしれない。
ほった:前席のサイドウィンドウ、ほぼ三角形ですもんね。
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バンパーに開けられたナゾの穴の正体
清水:スラントノーズも、もっと緩くしてもよかったなぁ。
渕野:それもありますね。
ほった:ノーズといえばなんですけど、バンパーの中央あたりに2本の穴が開いてますけど、ありゃ何なんです? なきゃいけないもんなんですか?
渕野:これはグリルの開口部で、冷却に必要なんでしょう。この手のクルマって、ラジエーターの位置は「フィット」などのコンパクトモデルとあんまり変わらないんですよ。だけど背が高くて、そのぶん顔も厚いから、“デザイン上のグリル”の裏にはラジエーターがいなかったりするんです。それでこういう処理をするんですよね。
ほった:それにしても、そこのまわりだけ造形の縮尺が違うというか、ちょっと安っぽくないですか? 4つ並んだスリットとかは昔の「ゲームボーイ」のスピーカーみたいだし。……まぁ、個人的にはこういうデザイン好きなんですけどね。「スズキ・ツイン」のバンパーみたいで、哀愁を感じて。
清水:オレも好き! 初代ウォークマンっぽいじゃない! つまり日本の黄金期の香りがする!
渕野:その辺の感覚はわかりませんが(笑)、ヘッドライトとグリルまわりが結構しっかり主張しているから、そもそもこのディテールは、わざわざ議論されるほど目にはつかないと思いますよ。それより自分としては、リアまわりにもうひと工夫あればより魅力的になったかなぁと思いますかね。……とはいえ、全体的にはシンプルで、プロポーションもいい。
清水:すばらしいデザインですよ!
渕野:結構売れそうですよね、これ。
ほった:いやいやいや。そこはシエンタが……トヨタが黙っちゃいませんよ。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=本田技研工業、トヨタ自動車、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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