ランボルギーニ・ウラカン テクニカ(MR/7AT)
“V10ランボ”の集大成 2022.07.16 試乗記 自然吸気のV10エンジンをリアミドに搭載した「ランボルギーニ・ウラカン」に、最新モデル「テクニカ」が登場。操る楽しさを追求したという後輪駆動のウラカンは、およそ20年にわたり歴史を重ねてきた“V10ランボ”の集大成にふさわしいクルマに仕上がっていた。進む電動化戦略の陰で
2022年に入ってもランボルギーニは販売台数、売上高、純利益の3指標において過去最高を更新。絶好調を続けている。なかでも販売台数はこの5月までですでに4000台を超え、年間1万台の大台に届くハイペースだ。
もっとも、ステファン・ヴィンケルマン社長によれば「台数を追いかけるつもりはない」とのこと。彼らが注力するのは台あたりの利益率であり、そのため「アドペルソナム」(特別仕様オーダー)や限定車ビジネスにも力を入れてきた。売り上げの伸び率に対して純利益の伸び率が倍以上という2022年第1四半期の成績が、そのことをよく物語っている。
一方で、ランボルギーニは他のスーパーカーブランドに比べて、電動化に代表されるような未来への取り組みが遅れているようにも見える。フェラーリやマクラーレンがこのところ矢継ぎ早にプラグインハイブリッドのモデルをリリースしているのに対し、ランボルギーニといえば、ライトなスーパーキャパシタ・ハイブリッドを搭載した限定車「シアン」や「カウンタック」のみ。ランボファンでなくとも先行きが不安になりそうだが、心配は無用だ。
以前から筆者が指摘してきたとおり(参照1、参照2)、2023年早々にはフラッグシップモデルの「アヴェンタドール」がフルモデルチェンジし、V12+PHEVのハイパーカーとして生まれ変わる。続いて2024年には他モデルのPHEVも出そろい、さらに2028年にはフル電動の2+2GTが誕生する予定だ。エネルギー事情が一層不透明になった昨今、遅れた電動化はむしろランボルギーニには追い風になるかもしれない。よりグリーンな燃料による内燃機関(エンジン)搭載車存続への、時間稼ぎにもなるからだ。
直近の話をしておくと、「ウルス」のマイナーチェンジモデルが2022年8月のモントレー・カーウイーク(ザ・クエイル)にてデビューを果たし、同年12月にはウラカンの最終モデル(限定車)が登場する。逆に言うと、エンジン“だけ”を積んだランボルギーニの新車発表は2022年限り。そしてその純エンジンのモデルで、しかも自然吸気エンジンをパワーソースとする量産モデルとしても“ランボルギーニ最後”となるのが、今回の主役、ウラカン テクニカである。
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“テクニカ”という車名に込められた意味
サブネームの“テクニカ(Tecnica)”は“技術”という意味のイタリア語だ。優れたテクノロジーの搭載もさることながら、そこには21世紀になって大躍進を遂げたブランドの、“技(ワザ)”の集大成という意味も込められているのだと思う。というのも、ブランド復活のキーとなったモデルこそ、自然吸気のV10エンジンをリアミドに積んだ2つのシリーズ、「ガヤルド」とウラカンだったからだ。
この2モデルを軸とすることで、約20年前には年産1000台規模だったサンタガータの小さなメーカーは、夢のスーパーカーブランドであると同時に、類いまれな運動性能と実用性、ライフスタイル性を併せ持つカーメーカーとして生まれ変わった。累計生産2万台以上という大成功を収め、今なお生産中のウラカンの“10年”のみならず、1万4000台を生産したガヤルドの“10年”をも含めた「技の結晶」が、ウラカン テクニカというわけだ。
筆者は2003年のガヤルドに始まり、今回のウラカン テクニカまで、ほとんどすべてのV10モデルをテストする機会に恵まれてきた。合わせて3万5000台以上もつくられたサンタガータ製自然吸気V10ミドシップスーパーカーのデビューが、フリーランサー人生のスタートとほぼ重なっていたこともあって、個人的な思い入れも強い。
だからこそ、“V10ミド20年間”の集大成となるモデルとして、スーパーカーとしては原点回帰ともいうべきRWD(後輪駆動)のモデルが登場したことに、特別な感慨を覚える。厳密には最後の最後としてAWD(全輪駆動)のウラカンも2022年12月に登場する予定だが、そちらは量産モデルではなく限定車だ。
ウラカン テクニカ(と「STO」)は、ウラカンのフルモデルチェンジが予定される2024年まで、すなわち2023年いっぱい生産される。とはいえ年産規模は計画的だから、こちらも事実上は“期間限定”のようなもの。最後の自然吸気モデル、さらにこれから述べる優れたパフォーマンスにより、早々にオーダーは埋まりそうだから、欲しい人は早めにディーラーへ駆け込んだほうがよさそうだ。
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その立ち位置は「EVO RWD」と「STO」の間
思い返せば、当初5リッターだった自然吸気V10エンジンの最高出力は“たったの”500PSだった。ガヤルドのライバルと目された「フェラーリ360モデナ」が400PSだったから、それでも衝撃的な数値ではあったのだ。当時の技術陣は、高出力を安全かつ効果的に路面へと伝えるために4WDを選んだ、と説明したものだ。しかし、それから6年後の2009年には550PSのRWDモデルが登場。以来、ガヤルドのカタログにはAWDとRWDという、まるでキャラクターの違う2つのモデルが載ることとなった。そして、今やどうだ。640PSを誇る自然吸気V10エンジンを、4WDのみならず2WDで使いこなすに至った。まさに技術の躍進であろう。
ウラカン テクニカは、既存の「EVO RWD」とSTOとのギャップを埋める完成形であり、言ってみればウラカン版の「ウルティメ」だ。それゆえ、パワートレインをはじめシャシー制御の数々もSTOのそれらを踏襲したうえで、スタイリングをよりロードカーらしく仕立て直している。
派生モデルとはいえ、またド派手なエアロパーツが見当たらないとはいえ、ウラカン テクニカはEVO RWDとはまるで違う存在感を放っている。フロントのデザインは「シアンFKP37」、あるいは電動コンセプトカー「テルツォ ミッレニオ」をほうふつとさせるもので、空力や冷却性能を引き上げることに寄与している。全長はEVO RWDより6.1cm延伸され、さらにサイドウィンドウまわりもデザイン変更されたため、真横から見たスタイルはトラック専用モデル「エッセンツァSCV12」にそっくり。エアロダイナミクスの大幅向上という説明にもうなずける。決してモデル末期にありがちな在庫一掃セールではない。スタイルと性能を考えた場合、バーゲンプライスであることには違いないけれど!
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サーキットがこれほど楽しいとは!
いったいテクニカはEVO RWDとどう違って、STOのなにを受け継いでいるのだろうか?
シャシーにまつわるところでは、EVO RWDが装備した可変ギアレシオのLDS(ランボルギーニ・ダイナミック・ステアリング)を持たない、つまり固定のステアリングギアレシオとするかわりに、専用アプリケーションを備えたフィードフォワード制御の「LDVI(ランボルギーニ・ディナミカ・ヴェイコロ・インテグラータ)」が搭載され、専用チューンの足まわりとトラクションコントロールシステム、トルクベクタリング機能をもつ後輪操舵システムなどを統合制御する。これらは、同じく2駆のSTOと同じ手法だ。ただし、ドライブモードの分類はEVO RWDと同様に「ストラーダ」「スポルト」「コルサ」とした。要するにテクニカの評価ポイントは、「サーキットテストではコルサモードでどこまでSTOに肉薄でき、ストラーダでのロードインプレッションでは、いかにEVO RWDに近づくことができるか」になる。
そのことを確かめるべく、2022年6月も終わりに近づいたころ、筆者はスペイン・バレンシアに飛んだ。ランボルギーニとしては久々の大規模な国際試乗会が、サーキットと風光明媚(めいび)なマウンテンロードにおいて開催されたのだ。
午前中、まずはサーキットテストだ。一周4kmちょいというリカルド・トルモ・サーキットは、すり鉢状の土地に埋め込むようにしつらえられた、珍しい左回りのコース。チャレンジングなコーナーが多く、スーパーカーを楽しむにはもってこいで筆者のお気に入りのサーキットのひとつだ。過去には「アヴェンタドールS」やフォーミュラマシンで走った経験がある。言ってみれば勝手知ったるコースというわけで、4セットの試乗を存分に楽しんだ。
結論から言うと、サーキットでのテクニカは、STOや4WDモデルを含む過去のすべてのウラカンのなかでも、“ファン”という点でベストな一台だった。
もっとも、少しでも速く走りたいというユーザーには間違いなくSTOのほうがいい。なにしろサーキットでテストしても汗ひとつかかず、それでいて驚くようなラップタイムを刻む。コースへの“へばりつき”が尋常ではないから、コーナーがいちいち速い。対するテクニカはというと、スポルトモードはもちろん、コルサモードでもドライバーにある程度の自由度を与えるという点で、STOとはまるで違う。
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過去最高のV10サウンド
ランボルギーニの提供するコルサモードはニュートラルステアが基本で、とにかく正確に無駄なくコーナーを抜けることを優先する。それゆえ、ややもすると乗っていて速いけれども運転そのものは必ずしも楽しいとは思えなかった。ところがテクニカのコルサは、少しだけれども後輪に自由度があり、ドライバーにステアコントロールを要求する。これが実に絶妙で楽しい。そして速い!
もちろんSTOと同じ640PSのRWDで、エアロダイナミクス的にはEVOより向上しているとはいえSTOよりは低いから、そのあたりで“堪えきれなかった”だけかもしれない。けれども、いずれにせよコルサモードがファンだった唯一のランボルギーニであることは間違いない。
そして、スポルトモードはもうごきげんのひとことだった。フィードフォワード制御が精密で、どんなにリアが流れても“自分で立て直している”ように思える。完全にクルマによる制御であることは頭では理解できていても、ドライブ中はそうはまるで思わず、完全に“自分のウデ”だと信じ切れる。自分でドライブしているが、実は自分ではない。なんだかマトリックスの主人公になった気分だけれども、それが完全に楽しい経験であることは明らかだった。
午後、バレンシアのカントリーロードを200km以上駆け巡った。STOと同じブリヂストンの「ポテンザ スポーツ」を履き、サーキットでは非常にコントローラブルだったタイヤ&シャシーも、カントリーロードではやや硬質で、EVO AWDほどの洗練さはない。一方でSTOよりは明らかにしなやかで扱いやすい。感覚的にはEVO RWDより少し硬いか、という程度。個人的にはAWDモデルの乗り味を街なかでは好むが、テクニカも悪くないと思った。
なにより、自然吸気V10エンジンの美声を山中高らかに鳴り響かせつつ、電光石火のギアシフトを楽しみながら軽く攻め込んだときのウラカン テクニカは最高だ。V10サウンドは明らかに歴代最高の音質で、特にシフトダウンのブリッピング時にはV10らしい乾いた音でドライバーの気分をたかぶらせる。
2023年でデビューから10年を迎えるウラカン。集大成となるテクニカは、ガヤルドを含めたV10自然吸気エンジン+リアミドシップの20年を締めくくるにふさわしいモデルである。V10ランボは、サンタガータ・ルネサンスの第1黄金期の立役者にふさわしいエンディングを迎えた。
(文=西川 淳/写真=ランボルギーニ/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ランボルギーニ・ウラカン テクニカ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4567×1933×1165mm
ホイールベース:2620mm
車重:1379kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:640PS(470kW)/8000rpm
最大トルク:565N・m(57.6kgf・m)/6500rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20/(後)305/30ZR20(ブリヂストン・ポテンザ スポーツ)
燃費:--km/リッター
価格:約3000万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション、トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。