最大の敵は○○だ! “小さなクルマづくり”を極めるスズキ技術戦略の課題
2024.08.02 デイリーコラム小さいことは、いいことだ
この7月を振り返ってみると、取材先で久々に日本の“ものづくりパワー”が感じられて、元気をもらいながら記事を書けるいい月だった。なかでも心に残っているのが、世界が驚く“氷もOK!”なオールシーズンタイヤ「ダンロップ・シンクロウェザー」の発表と、「小・少・軽・短・美」を掲げたスズキの技術戦略説明会だ。
とくに後者は、大衆車を主軸とするスズキらしい計画で、世界的にEVシフトが見直されるタイミングで示された、政治色が薄く、納得感の強い未来図として、広くポジティブに受け止められたように思う。細かい内容については同日発表のニュース(参照)に任せるが、要約すると「スズキ得意の小型車の技術をさらに磨くことで、資源消費が少なく環境負荷が小さい、本当に環境にいいといえるクルマの在り方を提案する」というものだ。
小さいクルマなら、つくるのに必要な資源は少なくて済むし、走行時に消費されるエネルギーも、インフラにあたえる負担も低く抑えられる。それは電気自動車(EV)でも同じで、長大な航続距離をあきらめれば、生産時にレアアースや電気をドカ食いするバッテリーの搭載量を減らせて、軽量化により省エネルギーで走れることにもつながる。本当に環境負荷の低減を考えるのなら、小さいことは素晴らしい。小さいことはいいことずくめだ。
プレゼンテーションでは、鈴木俊宏社長と加藤勝弘技術統括が「次期型『アルト』では車重を100kg軽量化する!」と発表して報道陣を驚かせるとともに、スズキらしい適所適材な電動車の開発、世界的なサーキュラーエコノミー(循環型経済、要するにリサイクル)の推進など、さまざまな取り組みが語られた。会の後半では、5つの技術解説エリアを開放して自由取材タイムが設けられたが、1時間ではとてもとても。取材する報道陣も相対する技術者も相当な熱量で、記者もまったく時間が足りなかった。
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昔から変わらないスズキの考え方
ところで、スズキがこうした指針を表明するのは今回が初ではない。「ジャパンモビリティショー2023」のプレスカンファレンスでも似たような話があったし、現行の軽量プラットフォーム「ハーテクト」実用化の際にも、「クルマが小さければ環境的にも経済的にも優しくなれる」と話を聞かされた。さかのぼれば、かつての30km/リッターカー「アルト エコ」の取材でも、そうした主張を耳にした覚えがある。記憶にある限り、記者がこの業界で禄(ろく)を食(は)み始めたころから、スズキの姿勢はブレていないのだ。それどころか、もし鈴木 修前会長と仲良しだった故徳大寺有恒さんに話をうかがえたなら、「いや、スズキは昔っからそうだったんだヨ」とおっしゃったかもしれない。
従って、長年スズキをストーキングしてきた記者としては、説明会で明かされた「小・少・軽・短・美」の指針は、“現状の再確認”といった意味合いが強かった。驚かされたのは各施策の踏み込み具合のほうで、記者の浅学もあって、「え? 次期型アルトは車重600kgを切るの?」「スズキの次期型ハイブリッドって、こうなるの?」「インドでもここまでリサイクル事業って進んでいるの?」と初耳の連発だった。
また各技術や施策の突っ込んだ話も興味深く、例えば車体技術では「CO2削減のために“鉄”にこだわる」という解説が目からウロコだった。車体を構成する金属としては、昨今は軽量なアルミがもてはやされているが、技術者いわく「アルミは製造時に大量の電力を消費する(≒CO2排出量が多い)ので、まずは鉄のポテンシャルを使い切る。アルミの採用拡大については、リサイクル材の開発とグリーン電力の普及に期待」とのことだ。最近は取材の先々で「ギガキャスト、ギガキャスト……」と洗脳されて帰ってくる記者ゆえ、この視座は新鮮で、スズキの地に足がついたカーボンオフセットへの取り組みを垣間見た次第である。
ちなみにカーボンオフセットといえば、スズキは海外で創エネルギー事業にも取り組んでいる。インドでは2025年より順次4つのバイオガスプラントを稼働させる予定で、5カ所目のプラント設置についても現地企業・団体と合意。牛のフンでクルマが走る未来が、本当に近づいているのだ。子供のころ、某SF映画の「生ごみで走るデロリアン」に未来を見た記者にとっては、EVや燃料電池車と並ぶ夢の話である。今回の説明会では取り上げられなかったけれど、ぜひ今後も、スズキのバイオガス事業をウオッチしていきたい。
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あなたは受け入れられますか?
このように、記者もこっそり、業界の片隅でスズキの技術戦略を応援しているのだが、いっぽうで「この戦略をとるスズキは、前途洋々といえるのか?」と問われれば……恐れながら、むしろ険しい道が待ち受けているのではないかと思う。最大の敵は、世に跋扈(ばっこ)するEV過激派……などではなく、私たち一般消費者のマインドだ。
プレゼンテーション後の質疑応答で、鈴木社長は多機能・高額化したスマートフォンを例にとり、満艦飾な昨今の自動車に疑問を呈していた。いわく、インテリアの樹脂パーツはホントにこんなに必要か。リアワイパーはホントに使われているのか。クルマがどんどん豪華になっている今、基本を考え直したい。移動に必要なものとはなんなのか、お客さまと話し合いたい。……とのことだ。
なんだかんだ言っても、私たちは便利で見えを張れるものが大好きだ。日本でいちばん売れているクルマは軽トールワゴンだし、EVといえば、いまだに航続距離(と充電時間)の問題でつつかれる。過去を振り返っても、機能を突き詰めた革新的なクルマが死屍(しし)累々。みんな大好きな「スズキ・ツイン」などは、その最たる例だろう。かようなマーケットで「車重500kg台の質素なアルト」や「航続距離の短いバッテリーリーンなEV」を世に問うても、本当に買ってもらえるのか? ……恐らくは鈴木社長も、こうしたアンマッチを理解しているからこそ、上述の発言に至ったのだと思う。
スズキが主張する「小・少・軽・短・美」のクルマづくりは本当に慧眼(けいがん)だし、知的だと思う。でもいっぽうで、2030年代の私たちは、そうしたクルマを受け入れられるマインドセットになっているだろうか? カスタマーが過去の消費行動を引きずっているのに、メーカーにだけ未来を求めたってムリがある。齟齬(そご)が生まれる。今回のスズキの発表に「よく言った!」と快哉(かいさい)を上げた人は、上述のツインの写真を見ながら、「俺、これ買えるかな?」と自分事として考えてみてほしい。
(文=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/写真=スズキ、webCG/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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