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第38回:魂動デザインの未来を問う(後編) ―マツダを待つのは飛躍か、殉教か―

2024.09.04 カーデザイン曼荼羅 渕野 健太郎清水 草一
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マツダの新時代を切り開く「CX-60/CX-80」。その造形に宿るのは、新しい挑戦か? 棄教をささやく悪魔の声か? マツダデザインの教典「魂動デザイン」の是非とその未来について、元カーデザイナーとモータージャーナリスト、webCG編集部員が激論を交わす。

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マツダのクルマはどれも一緒?

渕野健太郎(以下、渕野):前回はいろいろ言いましたけど、プロポーションとかを見たら、CX-80もやっぱりデザインがいいクルマだと思うんですよ。でも、自分のマツダデザインに対する期待は、もっともっと高いんです。

清水草一(以下、清水):私の場合、マツダに注文があるとすれば、SUVばっかりになってることが残念だなぁ。SUV以外は売れないっていう現状を考えると仕方ないですけど、統一されたデザインの似たようなSUVばかり出てくることに対して、どうしても飽きを感じる。SUVという時点で興味が薄いので、アイドルユニットの顔の見分けがつかないみたいな状態で、CX-60もCX-80もほとんど印象が変わらないんですよ。これはメルセデス・ベンツのデザインに対する思いと近いんですけど(その1その2)。

webCGほった(以下、ほった):さいですか? 同じマツダのクロスオーバーでも「MX-30」はまたイメージが違うし、「CX-3」と「CX-30」も随分カタチが違うじゃないですか。マツダはよっぽど頑張ってると思うんですけど。

渕野:いや、そうですよ。立体の構成も違うし、リフレクションの入り方とかもそれぞれで異なってる。メルセデスみたいな「どれ見ても一緒」みたいな感じではないんじゃないですか? プロポーションのつくり方は似ているので、そこで同じような感じに見えるっていうのはあるかもしれませんが。

清水:SUV好きなら個性豊かに見えるんでしょうね、きっと……。私、これまで54台クルマを買ってて、SUVはゼロなので。

渕野:でもほら、それでも北米や中国向けの「CX-50」は、ちょっと違って見えません?

ほった:あのオフロードっぽいやつですな。日本でもいろんな人が「いいじゃない。これ欲しいな」って言ってたけど。

渕野:幅は「CX-5」よりだいぶ広くなってますね(1920mm)。

清水:それだけ幅が広けりゃ、カッコよくもなるでしょう。

渕野:自分もこれが出てきたときは、「カッコいいじゃん!」って思ったんですけど、なんと日本には来ないという……。

ほった:今日び、日本のマーケットなんてその程度の扱いなんですかね。

国内におけるマツダの新たなフラッグシップとして登場する「CX-80」。先達(せんだつ)の「CX-60」ともども、既存のマツダ車とは趣を異にする意匠をしているが……。
国内におけるマツダの新たなフラッグシップとして登場する「CX-80」。先達(せんだつ)の「CX-60」ともども、既存のマツダ車とは趣を異にする意匠をしているが……。拡大
上から「CX-3」「CX-30」「MX-30」。ジャンル的には同じ“コンパクトクロスオーバー”の枠でくくられる3台だが、こうして見ると、ボディーパネルの表情や、ルーフラインのピークの位置などが、随分異なっている。
上から「CX-3」「CX-30」「MX-30」。ジャンル的には同じ“コンパクトクロスオーバー”の枠でくくられる3台だが、こうして見ると、ボディーパネルの表情や、ルーフラインのピークの位置などが、随分異なっている。拡大
既存のマツダ製クロスオーバーとは一線を画すモデルとして、2021年に登場した「CX-50」。デザイン、パフォーマンスともに、ややオフロード寄りとしたモデルだ。
既存のマツダ製クロスオーバーとは一線を画すモデルとして、2021年に登場した「CX-50」。デザイン、パフォーマンスともに、ややオフロード寄りとしたモデルだ。拡大
大きく張り出した前後フェンダーからもわかるとおり、その全幅は1920mmと相当なもの。同じFFプラットフォームの「CX-5」より、75mmも幅が広いのだ。
大きく張り出した前後フェンダーからもわかるとおり、その全幅は1920mmと相当なもの。同じFFプラットフォームの「CX-5」より、75mmも幅が広いのだ。拡大
清水「……でも、幅1920mmのSUVなんて、今の日本では結構ザラだよね?」 
ほった「導入したら人気になると思うんですけどねぇ」
清水「……でも、幅1920mmのSUVなんて、今の日本では結構ザラだよね?」 
	ほった「導入したら人気になると思うんですけどねぇ」拡大
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今日のマツダデザインの本当にスゴいところ

渕野:それにしても、こうしてマツダのラインナップ全体を見ると、やっぱりCX-60とCX-80が気になるというか。

ほった:ちょっと異質ですね、ラージ商品群の2台は。

清水:ええっ!? ラージが一番いいんじゃない? CX-60とCX-80のロングノーズ・絶壁フェイスが一番イケてると思いますよ!

ほった:清水さんは顔しか見てないから(笑)。

清水:プロポーションも大事だけどさ、顔も大事じゃん! 同じくらい!

渕野:まぁ、その話は前回済ませたことなので……。それにしても、ラージ商品群のインテリアはすごくいいですね。質感がすごく高い。

ほった:それはびっくりしました、ホントに。

渕野:CX-60も下位グレードは普通の樹脂インパネなんだけど、上位グレードになると全然違う。

ほった:特に「プレミアムモダン」っていう白インテリアのやつがあるじゃないですか。あれがスゴかった。ダッシュボードも織物で覆ってて、真ん中を細工が横断してたりして。色もただの白じゃなくて、黒のアクセントを少しずつまぶしたりとかしてるんですよ。ドアとインパネの境なんかも緻密にかみ合っててズレはないし……。これ、最初に見たとき「マジかよ」と思いましたもん。この手間とクオリティー。マツダのデザイナーさん、狂ってんなと(感動)。

清水:狂ったようにこだわってるよね。

渕野:内装はどのマツダ車もしっかりできてて、いいなと思います。内装だけでも欲しいと思えてくる。

ほった:あと、個人的に思う今のマツダのスゴいところをお話しすると、パネルのほのかな曲面で動きを見せてるじゃないですか。あの技法は多分、今はマツダしかできてないんじゃないかなと。

渕野:キャラクターラインじゃなくてリフレクション(反射)で見せるっていうのは、本当にマツダと……あと1社ぐらいかな?

ほった:ラインナップ全般でっていうと、レクサスぐらいですかね。

渕野:やろうとしてることは近いですね。でもマツダのほうが自然なデザインにできている。自然なんだけど、よくよく見たらすげえことやってるなっていうデザインになってます。

ほった:クレイの人たちのウデが、半端じゃないらしいですね。

渕野:いや、そうでしょう。

厚みのあるフロントマスクが印象的な「CX-80」。色に対するこだわりも最近のマツダの特徴で、CX-80にも「アーティザンレッドプレミアムメタリック」と「メルティングカッパーメタリック」(写真)という、美しい新色が設定されている。(写真:向後一宏)
厚みのあるフロントマスクが印象的な「CX-80」。色に対するこだわりも最近のマツダの特徴で、CX-80にも「アーティザンレッドプレミアムメタリック」と「メルティングカッパーメタリック」(写真)という、美しい新色が設定されている。(写真:向後一宏)拡大
「CX-60プレミアムモダン」のインストゥルメントパネルまわり。ピュアホワイトの内装は、季節の移ろいにも敏感に気づく、日本人の美感を意識してデザインしたという。(写真:花村英典)
「CX-60プレミアムモダン」のインストゥルメントパネルまわり。ピュアホワイトの内装は、季節の移ろいにも敏感に気づく、日本人の美感を意識してデザインしたという。(写真:花村英典)拡大
各所を覆う織物には、ほのかに黒をまぶすことで独特の風合いを表現。ダッシュボードには、一定の間隔をあけて生地を留める“かけ縫い”の技法を取り入れた。
各所を覆う織物には、ほのかに黒をまぶすことで独特の風合いを表現。ダッシュボードには、一定の間隔をあけて生地を留める“かけ縫い”の技法を取り入れた。拡大
ほった「渕野さんは『日産アリア』のCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)を絶賛していましたけど、マツダも負けてないと思うんですよ」
ほった「渕野さんは『日産アリア』のCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)を絶賛していましたけど、マツダも負けてないと思うんですよ」拡大
「CX-80」のドアパネルに浮かぶ、大きな陰影の変化に注目。「CX-30」や「CX-60」、CX-80では、プレスラインに頼るのではなく、連続的な面の変化によりリフレクション(反射)で表情を見せているのだ。 
ほった「マツダのこの手法、上品で繊細で大胆で、個人的に結構好きなんですけど」 
渕野「自然なニュアンスでこれができるメーカーって、なかなかないですよね」
「CX-80」のドアパネルに浮かぶ、大きな陰影の変化に注目。「CX-30」や「CX-60」、CX-80では、プレスラインに頼るのではなく、連続的な面の変化によりリフレクション(反射)で表情を見せているのだ。 
	ほった「マツダのこの手法、上品で繊細で大胆で、個人的に結構好きなんですけど」 
	渕野「自然なニュアンスでこれができるメーカーって、なかなかないですよね」拡大

オラオラ系のマツダ車も見てみたい?

清水:僕は皆さんの意見とは真逆で、マツダのラインナップにはエグみがなさすぎると思うんですよ。ひとつくらいエグいモデルが欲しい。BMWの「XM」とか「X2」みたいな、「おりゃー!」ってジェット噴射しそうなリアデザインのモデルがあったら、「こりゃ違うわ!」ってわかりやすいじゃないですか。(全員笑)

ほった:マツダがそれやったらおしまいでしょ!

渕野:彼らにそれができないっていうわけではなくて、ブランドごとに「ウチのデザインはどうあるべきか」みたいな哲学があるので。今のBMWは、その「おりゃー!」が哲学なんだと思うんですけど、それと同じものを、哲学が違うマツダに求めるのは、ちょっと(笑)。

清水:それでもですよ、マツダは今、徹底してお上品路線でしょ。だから逆に“ガンダム”をやったらどうなるか見てみたいんです。

渕野:マツダの場合は、これまで培ってきた魂動デザインをどうするかっていうのがあるわけで、いきなり真逆のことはしづらいでしょう。

清水:それに、そもそもジェット噴射みたいなパワフルなエンジンが、マツダにはないんだよな……。

渕野:そうですね。形だけ派手にして中身が伴わないのはちょっと。本当はマツダも、もっとスポーティーなクルマがつくりたいんですかね?

ほった:どうなんでしょうね。モーターショーでは、ことあるごとにスポーツカーのコンセプトモデルを出してはいますけど。

フロントはもちろんのこと、リアでもオラオラ系のデザインを貫く「BMW XM」。こういうイメージのマツダ車も見てみたい……?
フロントはもちろんのこと、リアでもオラオラ系のデザインを貫く「BMW XM」。こういうイメージのマツダ車も見てみたい……?拡大
隆々と盛り上がったボンネットや、でっかいエアインテーク、専用の空力パーツなどが目を引く「マツダスピードアクセラ」(2009年)。マツダにも、昔はこうしたモデルがあったのだが……。
隆々と盛り上がったボンネットや、でっかいエアインテーク、専用の空力パーツなどが目を引く「マツダスピードアクセラ」(2009年)。マツダにも、昔はこうしたモデルがあったのだが……。拡大
清水「そもそも今のマツダには、『おりゃー、ジェット噴射じゃ!』って盛り上がれるエンジンがないんだよね」 
ほった「やはり……やはり“あのエンジン”の復活に期待するしかないのか!」
清水「そもそも今のマツダには、『おりゃー、ジェット噴射じゃ!』って盛り上がれるエンジンがないんだよね」 
	ほった「やはり……やはり“あのエンジン”の復活に期待するしかないのか!」拡大
2015年の東京モーターショーに出展されたコンセプトモデル「RX-VISION(ビジョン)」。
2015年の東京モーターショーに出展されたコンセプトモデル「RX-VISION(ビジョン)」。拡大

どうせならもっとブッ飛んだクルマを出してよ!

渕野:ほかのマツダ車はどうです? 皆さんの目から見て。

清水:いやもう自分は、「ロードスター」のデザインは神だと思ってます。

ほった:東京国立博物館に収蔵して、未来永劫(えいごう)伝えていくべきです。

渕野:ロードスターはいいですよねぇ。

清水:一番美しいスポーツカーでしょう。その逆で、マツダにはMX-30っていう問題児がいるじゃないですか。これはどうですか? 

渕野:ウーン。いや、ちょっと……。

清水:外すんだったら、もっといいほうに外してほしかった(笑)。

渕野:これもプロポーションは全然いいんですけどねぇ。……例えばフェンダーのアーチクラッディング(フェンダーアーチモールの部分)、これ、前は立ち気味で後ろは“流れてる”んです。こんな風に、MX-30では普通はあまりやらないことをマツダはやってるんですけど……それが効果的か? って言われると、ちょっと疑問です。顔まわりのイメージも、ちょっと締まりがないかな。

ほった:あえて中途半端にしたっていうか、少し隙があるカタチにしたってことはないですか?

渕野:それは、観音開きのドアも含めて?

ほった:ですかね。

渕野:「これまでと違うマツダ車をデザインする」というデザイナーの目標が高いことはとても感じます。ただ、そのデザインを成立させるための観音開きだったとしたら、少し“説得性”に疑問がありますね。

ほった:説得力は、確かにちょっと弱いかも。

清水:マツダはいろいろ遠回りを続けてますよね。涙ぐましいほどの遠回りを。自ら苦難の道を選んでる。その努力に対して、カーマニアとして応援は惜しまないけど、外して外して、遊びでつくったクルマがこれっていうのは……。

ほった:遊びでつくったんなら、もっとぶっ飛んでほしかったって感じですか。

清水:どうせ赤字出すんなら、「アイコニックSP」を出してよ!

3人全員が「希代の快作」ということで合意した4代目「マツダ・ロードスター」。某若手シンガーソングライターの歌じゃないけれど、正面で見ても横から見ても下から見てもいいクルマ。
3人全員が「希代の快作」ということで合意した4代目「マツダ・ロードスター」。某若手シンガーソングライターの歌じゃないけれど、正面で見ても横から見ても下から見てもいいクルマ。拡大
清水氏が「問題児」とぶった切る「MX-30」。電気自動車や、ロータリーエンジンのレンジエクステンダー搭載車なども設定される意欲的なモデルで、デザインテーマは「ヒューマンモダン」とされている。
清水氏が「問題児」とぶった切る「MX-30」。電気自動車や、ロータリーエンジンのレンジエクステンダー搭載車なども設定される意欲的なモデルで、デザインテーマは「ヒューマンモダン」とされている。拡大
サイドビューではフェンダーモールの意匠に注目。特にフロントがわかりやすいが、前側を立て気味に、後ろ側は傾斜を緩めにと、前後非対称なデザインとすることで動きを見せているのだ。
サイドビューではフェンダーモールの意匠に注目。特にフロントがわかりやすいが、前側を立て気味に、後ろ側は傾斜を緩めにと、前後非対称なデザインとすることで動きを見せているのだ。拡大
いろんな意味で挑戦的なモデルだった「MX-30」だが、観音開き式のドアを含め、元カーデザイナーの識者の目には「ここがその形である必然性というか、説得力が薄い……」と映ったようだ。
いろんな意味で挑戦的なモデルだった「MX-30」だが、観音開き式のドアを含め、元カーデザイナーの識者の目には「ここがその形である必然性というか、説得力が薄い……」と映ったようだ。拡大
ほった「でも、一応『MX-30』って、ドイツの『レッドドット・デザイン賞』でプロダクトデザイン部門に選ばれていたり、日本でも『日本カー・オブ・ザ・イヤー』で『デザイン・オブ・ザ・イヤー』を受賞したりしてるんですよね」 
渕野&清水「……」
ほった「でも、一応『MX-30』って、ドイツの『レッドドット・デザイン賞』でプロダクトデザイン部門に選ばれていたり、日本でも『日本カー・オブ・ザ・イヤー』で『デザイン・オブ・ザ・イヤー』を受賞したりしてるんですよね」 
	渕野&清水「……」拡大

見目麗しい「アイコニックSP」に抱く疑問

渕野:そうそう、アイコニックSPはどうです?

清水:いやもうホントにカッコいいです。もうあの形だけで買えますね。たとえ電気自動車であっても。アイコニックSPは、クラシックフェラーリの世界ですよ。

ほった:確かにあれもイカしてますけど、私ゃちょっと前の「RXビジョン」のほうが好きでしたね。それとアイコニックSPって、あれはもう既存の魂動デザインから逸脱してますよね? これからのマツダデザインは、あの方向にいくのかな? でも、あれって小さなスポーツカーに特化した造形な気がして、正直、SUVとかほかの車形に応用しづらいと思うんですけど。まぁ素人考えですけどね。

渕野:そうですね。あれはすごく奇麗だし、いいとは思うんですけども……。マツダ車のデザインであそこまでボディーがくびれたものって、今までなかったでしょ。RXビジョンも、どっちかというズバーンって前から後ろまでまっすぐ伸びてましたよね。それが「深化した魂動デザイン」だったんじゃないかな? でもアイコニックSPは相当くびれています。上から見るとわかりやすいですが、メインの立体はフロントからリアに向かってギュッと絞り、リアまわりを別立体にしている。基本的にはスポーツカーによくある構成ですが、RXビジョンのみならず、FD型の「RX-7」など、歴代マツダのスポーツカーは前から後ろまでズドーンとひとかたまりの構成が多かったので、そこがやや異質に見えました。

ほった:そういうデザイン的な理由もあったのかな。個人的に、なんか脈絡なくパッと出てきた感がぬぐえないんですよね。過去のショーカーみたいに展開が広がっていく気配もなさそうだし……。市販化のウワサはありますけど、それがないなら、マツダがあれをつくった理由がホントにわからない。

清水:夢なんだよ、多分。崇高な夢。「夢じゃ夢じゃ、これは夢じゃ~」。

ほった:そのネタだと、高尚な夢じゃなくて錯乱と現実逃避になっちゃいますよ。でも、やっぱそうですよねぇ。

渕野:夢でしかないんですかね、やっぱり。

ほった:ひとつだけあるとしたら次期ロードスターなのかなと。マツダは否定してますけど。

2023年のジャパンモビリティショーで、クルマ好きの熱い視線を一身に集めたコンセプトモデル「アイコニックSP」。プレスラインなどはなく、まさに“形”だけで勝負してきた感のあるモデルだ。
2023年のジャパンモビリティショーで、クルマ好きの熱い視線を一身に集めたコンセプトモデル「アイコニックSP」。プレスラインなどはなく、まさに“形”だけで勝負してきた感のあるモデルだ。拡大
ボディーサイドが強烈に絞り込まれた、グラマラスな意匠が特徴の「アイコニックSP」。このクルマが市販化される、もしくはこのデザインが他の車形に応用されることは、あるのだろうか……?
ボディーサイドが強烈に絞り込まれた、グラマラスな意匠が特徴の「アイコニックSP」。このクルマが市販化される、もしくはこのデザインが他の車形に応用されることは、あるのだろうか……?拡大
青一色で仕立てられたインテリアには、植物由来のファブリックを使った藍染めの生地や、広島産のカキ殻を使った再生素材が用いられているという。
青一色で仕立てられたインテリアには、植物由来のファブリックを使った藍染めの生地や、広島産のカキ殻を使った再生素材が用いられているという。拡大
傑作の誉れ高いFD型「RX-7」。グラマラスな印象が強い同車だが、実際にはご覧のとおり、ボディーの張り出し/しぼり込みはかなり控えめだった。……余談だが、清水氏の言う「夢じゃ~」の元ネタは、映画『柳生一族の陰謀』のクライマックスにおける悪役のセリフだ。
傑作の誉れ高いFD型「RX-7」。グラマラスな印象が強い同車だが、実際にはご覧のとおり、ボディーの張り出し/しぼり込みはかなり控えめだった。……余談だが、清水氏の言う「夢じゃ~」の元ネタは、映画『柳生一族の陰謀』のクライマックスにおける悪役のセリフだ。拡大

教義を貫くべきか、捨てるべきか

渕野:とにかく、今のマツダ車がカッコいいのは確かだから、そこの軸はブラさないでほしいんですよ。

ほった:ですねぇ。俺も、実家の父がマイカーを買い替えるとき、いきなり「マツダってどうなの?」って聞かれてびっくりしましたもん(参照)。それまで広島とは縁のないカーライフを送ってたのに、いきなりですよ。やっぱデザインが人に与える影響はすごいんだなと思いました。

渕野:それはもう、完全にデザインの力ですね。ほかの国産メーカーとは、マツダは見ているところが違う。

清水:でもねぇ、私は、マツダが一人で壮大なガマン比べをやってるように見えるんですよ。「もうこのデザイン教は絶対に変えない!」って。「これを捨てたら俺たちは消える! 信じた道を進むしかないんだ!」って誓いつつ、殉教者になってしまうかもしれない。大丈夫かな? って心配なんです。もうちょっと大衆受けするエグみで味つけしたモデルがあってもいいんじゃないか。渕野さんはそれとは真逆のことを懸念してますよね? CX-60やCX-80は商売っ気が出てるんじゃないかと。それはなんだか、「潔く討ち死にしてこい!」っていう風に聞こえるなぁ。

渕野:いや、商売は最重要ですよ。そこを否定しているわけじゃないです。マツダのように、ここまでプロポーションにこだわっているメーカーってあまりないですよね? で、現ユーザーも潜在的にそこを気に入って買っているはずなんです。だから、それを変えてしまうのはもったいないという気持ちがあるんですよ。市場要望はもちろん大切ですが、それにより今のピュアなデザインにしわ寄せが来るとすると、前回も言いましたが、本末転倒なことになりかねない。

ほった:そうですねぇ。私も、いまさら教義を捨てるほうがアカンことになる気がします。

渕野:迷いが見えると消費者って引いていくじゃないですか。プレミアムブランドはそこを見せないですからね。

清水:耐えて耐えて、プレミアムブランドに到達できるかどうか。そこまでもつのか燃料は! っていうね……。

ほった:もつことを祈りましょう。

渕野:もちろん祈ってますよ(笑)。

(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=マツダ、向後一宏、花村英典、webCG/編集=堀田剛資)

渕野氏がそのデザインを高く評価する「マツダ3」。 
渕野「ここまでクルマのプロポーションにこだわるメーカーは、国内ではマツダだけです。ぜひ今後も、その姿勢を貫いてほしいんですけど……」
渕野氏がそのデザインを高く評価する「マツダ3」。 
	渕野「ここまでクルマのプロポーションにこだわるメーカーは、国内ではマツダだけです。ぜひ今後も、その姿勢を貫いてほしいんですけど……」拡大
構造改革を通し、ブランドの地位向上に前のめりに取り組むマツダ。2014年には、高級感ただよう黒を基調としたショールームの展開もスタート。プレミアムブランド……とまではいかなくとも、アッパーブランドへの移行を図っている。
構造改革を通し、ブランドの地位向上に前のめりに取り組むマツダ。2014年には、高級感ただよう黒を基調としたショールームの展開もスタート。プレミアムブランド……とまではいかなくとも、アッパーブランドへの移行を図っている。拡大
マツダの歴史を伝える文化施設「マツダミュージアム」も、2022年にリニューアルされた。
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マツダのカーデザインについて解説するスペースには、クレイモデルとともにコンセプトカー「RXビジョン」「ビジョンクーペ」の姿が。
マツダのカーデザインについて解説するスペースには、クレイモデルとともにコンセプトカー「RXビジョン」「ビジョンクーペ」の姿が。拡大
デザインテーマ「魂動 -SOUL of MOTION」を具現したオブジェ。強力なデザインへのこだわりによって高い評価を得てきたマツダ。今後もその方向性を貫くべきなのか、新しい方向へも目を向けるべきなのか……。読者諸氏の皆さまは、どう思ったでしょう。
デザインテーマ「魂動 -SOUL of MOTION」を具現したオブジェ。強力なデザインへのこだわりによって高い評価を得てきたマツダ。今後もその方向性を貫くべきなのか、新しい方向へも目を向けるべきなのか……。読者諸氏の皆さまは、どう思ったでしょう。拡大
渕野 健太郎

渕野 健太郎

プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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