第82回:革新のネオレトロ(後編) ―未来より過去のほうがカッコいい? トレンドを席巻する懐古デザインの行く先―
2025.08.27 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
その流れはスーパーカーの世界にまで! 今やカーデザインの大きなトレンドとなっているネオレトロ。この潮流はどのように始まり、どこへ向かおうとしているのか? もはやユーザーは新しいものに興味がないのか!? 有識者と、温故知新のその先について考えた。
(前編に戻る)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ヨーロッパが先か、アメリカが先か
webCGほった(以下、ほった):前回は「フォルクスワーゲンID. Buzz」の登場にかけて「いいレトロデザインとは何ぞや?」って話をしましたが、今回はレトロデザインの今までとこれからについて、考えてみたいと思います。
渕野:いや、すでに今のカーデザイン界で、ひとつの大きな潮流になっていると思います。個人的にはアメリカが中心になって進めたという印象なんですけど。
ほった:確かに、いちばんうまくやっているのはアメリカって感じですね。「フォード・マスタング」に「ダッジ・チャレンジャー/チャージャー」、ちょっと前に終売になっちゃったけど「シボレー・カマロ」。ジープは昔からジープなんで懐古とは違うのでしょうが、最近だと「フォード・ブロンコ」なんてのもありますね。
渕野:アメ車でレトロデザインが出てきたのは……マスタングが2004年でチャレンジャーが2008年。マスタングのほうは、もう20年も前になるんですね。
ほった:細かく言うと、マスタングはその前の代の後期型(1999年モデル~)から、ビミョーに懐古調を模索していたんですけどね。中途半端でわかりづらかったけど。
渕野:とにかく、このあたりからアメ車の復古ブームが始まってるわけです。カマロも2009年の復活時から初代のオマージュになって、以来、この流れは変わってない。
清水:ヨーロッパにもレトロデザインはいろいろあるけど、元はアメ車だと?
渕野:そう。主にアメリカからの発信じゃないでしょうか。
ほった:うーん。時系列で追っかけるなら、いちばん古いのは、やっぱり1998年の「フォルクスワーゲン・ニュービートル」になりますけど。
渕野:あ、そっちのほうが早いんだ。
ほった:はい。で、2001年に「MINI」が出る。レトロデザインでちゃんと商売ができるっていう結果を残したMINIの功績はデカいですよ。多車種展開でブランドにまでなっているんだから。
清水:結果的にそうなったよね。
ほった:いやいやいや。用意周到な計画のうえでですよ。
はじまりは同時多発的かもしれないけれど……
ほった:米が先か欧が先かの話に戻りますけど、ワタシの記憶が確かなら、デトロイト発のガチの懐古調マシンというと……2000年に「クライスラーPTクルーザー」が出てますが、明確にオリジナルがあるクルマとしては2002年の「フォード・サンダーバード」が1号じゃないかな。いずれにしろデビューは1998年より後なんで、やはり「原点はニュービートル」というのが、レトロデザインの正史かと。
渕野:なるほど……。しかし、これ(サンダーバード)は見たことないですね。
ほった:日本では正規販売されてないですから。
清水:サンダーバードはだいぶオモチャっぽい印象だったな。「日産フィガロ」みたいな。
ほった:ですね。本国でも出足はよかったんだけど尻すぼみで、サンダーバード自体がこの代でご臨終になりました。
清水:でもこれって、日本人がイメージするニッチなレトロカーの典型だったのかも。
渕野:レトロカーっていうと、日本でもネオクラシックがちょっとだけはやった時期がありましたよね。1990年代の後半だったかな?
清水:「三菱ミニカ タウンビー」とか「ダイハツ・ミラジーノ」とか、いわゆるクラシック風のやつですね。「スバル・インプレッサ カサブランカ」は悪夢だった(笑)。
ほった:ミラジーノを除くと場当たり的なイメージがぬぐえない(笑)。ただまぁ、世紀末の手前あたりで、世界同時多発的にレトロデザインの萌は出てきてたってことなんですかね?
渕野:かもしれませんね。ただ、付け焼き刃的なものじゃなく、それに本腰を入れて取り組んでいたのは、やっぱりアメリカなんじゃないかな。ニュービートルも、どちらかというとその場限りの雰囲気だった気がします。日産の「Be-1」のような。
ほった:実際、単一モデルの2世代だけで終わっちゃいましたからね。後のこととか横方向の展開とかを、ワーゲンは考えてなかったのかも。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
あのデザインはアメリカ人でないとムリ!
ほった:アメリカのレトロデザインの展開を見ると、前向きだったのはフォードとクライスラーですね。フォードのサンダーバードはコケちゃったけど、その後のマスタングが大好評。クライスラーもPTクルーザーや「300」がウケて、それを見てGMも「これで稼げるのか」ってなった感じかと。
渕野:こんなにウケるのか、みたいなね。
清水:2000年くらいのアメ車のデザインって、まったく魅力なかったですからね。アメ車にぜんぜん関心がない私も、あのマスタングは輝いて見えましたよ。
ほった:なぜかアメリカ人って、普通のクルマはそうでもないのに(笑)、ああいう遊びが入ったクルマのデザインは断然うまいんですよね。マスタングとかはネオレトロとしてもそうだし、今どきのスペシャリティーカー、マッスルカーとしても、とてもサマになってる。単純にカッコいい。
渕野:わかります、わかります。確かにこの手のデザインは、なかなかほかの国ではできないですよね。よくツボを押さえてる。
ほった:前回、清水さんは「こういうクルマをあんまり真面目につくるのはどうかな」っておっしゃってましたが、実はワタシはビミョーに反対で、レトロデザインを付加価値として押すんだったら、やっぱ徹頭徹尾ガチでやらないとダメだと思うんですよ。MINIもマスタングも、長く続いているネオレトロは、ガチなのばっかですから。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
先進のEVがレトロデザインを必要とする理由
渕野:付加価値という観点でいうと、レトロデザインのもうひとつの流れは、EV(電気自動車)化がもたらしているんだろうと思います。EVはまだ、どうしても値段が高くなってしまうので、付加価値が必要になるから。
ほった:その付加価値がレトロデザインなんだ。
渕野:そこに着目したメーカーが出てきてますよね。たとえばルノー。「サンク」と「キャトル」、どっちもレトロデザインです。ダイレクトなレトロじゃないけれど、ちょっとだけそれっぽい。ルノーはコンセプトカーもレトロデザインが多いんです。「トゥインゴ」とか。
清水:初代トゥインゴがもうレトロカーになるんですねぇ……。
ほった:初代トゥインゴ、発売は1992年だけど、2007年まで生産されてましたからね。
清水:そんなのつい最近じゃん(笑)。でもすでに懐かしい。オレ、3代目を持ってたけど、あれもレトロな味わいはあったよ。
渕野:ルノーのEVはこの流れでいくんでしょうね。
清水:確かに、EVはぜんぜん欲しいとは思わないけど、レトロデザインだとつい見ちゃいますよ。「フィアット500e」なんか、見た目だけでちょっと欲しくなったりして。
渕野:日本のメーカーでも、ホンダは結構そういうのに前向きですよね。「ホンダe」は初代「シビック」のオマージュだったし、今度出る「N-ONE e:」も、ベースとなる「N-ONE」は「N360」のオマージュだし。
ほった:N-ONE e:も、そこはかとなくクラシックな雰囲気が漂ってる。顔はずいぶん変えてきてるんですけどね。
渕野:そう、ボンネットがフラットになって、よりシンプルになりました。多分ボディーサイドやリアはベース車からそのまま流用で、フロントだけが違う。グッドウッド(英国で開催される自動車/モータースポーツイベント「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」)に出展された「スーパーEVコンセプト」は、「シティ ターボII」のリバイバルともいわれてます。
ほった:ブルドッグ! 懐かしいなぁ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ファンの胸を熱くした「フェアレディZ」
ほった:……ただ、日本だと他のメーカーはあんまりやりたがらないですよね。よくも悪くも「過去は振り返らないゼ」を地でいくホンダが、ネオレトロにいちばん前向きっていうのが皮肉というか。
清水:日本だと少ないよね。
渕野:ホンダのほかにありましたっけ?
ほった:「ランクル250(トヨタ・ランドクルーザー“250”)」くらい?
清水:「日産フェアレディZ」があるじゃないですか!
ほった:そうだ、Zがあった。でも申し訳ないですけど、マスタングとかチャレンジャーと比べたら、Zのデザインはいささか雑な気がします。先代の骨格に「S30(初代フェアレディZ)」っぽいディテールを張り付けてっただけだし、そもそも「2シーターのスポーツカーとしてカッコいいのか、これ?」って視点が、欠けてる気がする。
清水:俺は大好きだよ。だってこれ、まんまS30(初代フェアレディZ)みたいじゃん! Zは自分らの世代だと、とにかく昭和でいちばんカッコいいクルマだったんですよ。ハコスカとかもいたけどさ、あっちは箱だけどZは先がとんがってる(笑)。先がとんがってるロングノーズの国産車なんて、ほかになかった。だから、その原体験を再現してくれた今のZが大好きなんですよ!
ほった:レトロデザインがファンの気持ちを喚起する、まさに実例って感じですね。でも、実際モノとして見て、現行Zってどうなんですか?
渕野:うーん。私はあまりS30のイメージに見えないんですけど……私が、ツボがわかってないのかな?
清水:そうなのかー。勉強になるなぁ……。
ほった:ホントにそう思ってます?(笑)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
オリジナルへのあこがれなどなくても
渕野:話を世界に戻すと、スーパースポーツでもレトロデザインが定着してきてますよね。アストンマーティンの「ヴァラー」とか、フェラーリの「12チリンドリ」とか。
清水:スーパーカーは、もう昔を振り返る以外にやることないから。
ほった:なんて後ろ向きな(笑)。
清水:前に進むより、後ろに戻ったほうがワクワクするんだもん。
ほった:お金持ちでもそうなんだから、世が懐古主義に染まるのもむべなるかな。
渕野:清水さんが好きなBMWの「ノイエクラッセ」もそうで、新しいものを提案するコンセプトモデルですら、過去に題材を求めてる。メルセデス・ベンツも「Gクラス」で初代をオマージュした限定車を出しています。これはもう、ひとつの大きな流れです。古いものの再定義か。あるいはもうネタ切れだから古いデザインにすがるみたいな。でもそこに魅力があるのは事実なんですよ。
清水:魅力がありますよ! 少なくとも目がいく。
ほった:新しいものより古いものに魅力を感じる風潮は、確かにありますね。なんでこんな風になったのかな?
清水:あこがれの記憶の蓄積だよ。それでも古い本物はなかなか買えないけど、ネオクラシックならお金さえあれば買えるし。
ほった:そのお金がないんですけど。
清水:ほった君とオレは、古い本物をもう持ってるからいいんだよ。まだ安いころに買ったヤツ(笑)。(参照:その1、その2)
ほった:確かに。まさに完全勝利ですな(笑)。ただ前回も言いましたけど、オリジナルへのあこがれは抜きにして、ちょっとおしゃれなクルマが欲しいってんでレトロデザインを選ぶ人も多いと思います。ニッチな層にウケてた時代はとうに過ぎて、ネオレトロはますますフツーの存在になってきてると思いますよ。
渕野:その流れは、これからさらに広く波及していきそうな気がしますね。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=ステランティス、スバル、ゼネラルモーターズ、日産自動車、BMW、フォード、フォルクスワーゲン、本田技研工業、メルセデス・ベンツ、ルノー、newspress、webCG/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第114回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(前編) ―「トヨタ・タンドラ」の導入に対する元カーデザイナーの本音― 2026.5.27 「トヨタ・タンドラ」が日本にやってくる!? トランプ大統領のゴリ押しと、トヨタ&ホンダによるアメリカ生産車の日本導入決定により、今にわかに注目を集めている“アメリカのクルマ”。かの地で育まれた特殊な造形美を、カーデザインの識者はどう見ているのか?
-
第113回:ホンダデザインにささぐ鎮魂歌(後編) ―「Honda 0」と「アフィーラ」の断捨離で見えてくる未来― 2026.5.20 「Honda 0」の計画縮小と「アフィーラ」の開発中止で、すっかりネガティブな印象がついてしまったホンダデザイン。彼らの未来に再生の曙光はあるのか? というか、そもそもホンダ車のデザインって本当に迷走しているの? カーデザインの専門家と考えた。
-
第112回:ホンダデザインにささぐ鎮魂歌(前編) ―野心的な「Honda 0シリーズ」に覚えた違和感の正体― 2026.5.13 ついに開発中止が発表された「Honda 0サルーン/SUV」と「アフィーラ」。しかし、これらのカーデザインについては、かねて疑問が投げかけられていた。ホンダが社運をかけて挑んだ野心作に、私たちが違和感を覚えた理由とは? 有識者と考えた。
-
第111回:新型BMW i3(後編) ―BMWの挑戦が浮き彫りにした、BEVセダンのデザイン的課題― 2026.5.6 BMWが発表した新型「i3」は、スポーツセダンの世界的ベンチマーク「3シリーズ」の電気自動車(BEV)版ともいうべきモデルだ。彼らが思い描く、BEV時代のセダンの在り方とは? そこから浮かび上がる、未来のセダンの課題とは? カーデザインの識者と考えた。
-
第110回:新型BMW i3(前編) ―BEV版「3シリーズ」のデザインはなぜ「ノイエクラッセ」から変節したのか?― 2026.4.29 いよいよ登場した新型「BMW i3」。スポーツセダンのベンチマーク「3シリーズ」がついに電気自動車となったわけだが、そのデザインにはどんな見どころがあるのか? ショーカー「ビジョン ノイエクラッセ」から様変わりした理由とは? カーデザインの識者と考えた。
-
NEW
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
NEW
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。 -
NEW
第115回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(後編) ―デザインもサイズも規格外! 魅惑のアメリカ車はなぜ“主役”になれないのか?―
2026.6.3カーデザイン曼荼羅トヨタ&ホンダが発表した、米国生産車の日本導入計画。しかしアメリカには、規格外に面白いクルマがまだたくさんあるのだ! カーデザインの識者とともに魅惑の日本“未”導入車を探すとともに、魅力的なアメリカ車が、それでも主役になれない理由を考えた。 -
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。




























