第103回:フランス車暗黒時代(後編) ―おしゃれだったアナタはどこへ? フレンチデザイン没落の原因と再生への曙光―
2026.02.18 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
おしゃれなクルマをつくりたくてもつくれない? かつてセンスのかたまりだったフランス車は、なぜコテコテ&ゴテゴテのデザインに移行せざるを得なかったのか? カーデザインの識者とともに、フレンチデザインが変節した理由を深掘りし、復活の光を探った。
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もう以前のシトロエンには戻れない
渕野健太郎(以下、渕野):シトロエンは今、ポジションを模索しているんじゃないでしょうか? これ「C5エアクロス」ですけど、なんかとりとめのない感じがするでしょう。
webCGほった(以下、ほった):プレミアムに見せたいんだか、カジュアルに見せたいんだか。
清水草一(以下、清水):プジョーとすごく近くなって、どっちもイメージが薄くなったよね。
ほった:それについてちょっと思うんですが、今のヨーロッパって、安いクルマを全然つくれない環境になってるじゃないですか。厳しい環境規制と安全基準で、開発・生産コストが爆上がりして(参照)。それが、今のシトロエンのポジションにも影響してるんじゃないですかね?
清水:それはありそうだね。
ほった:コスト高でも一台一台、しっかり利ザヤを稼がなきゃいけないですからね。デザイン的にも、以前みたいにポップでカジュアルなものではなくて、コテコテした高見えするものにして、少しでもお金を取ろうって方向にせざるを得なくなったと。デザイナーのセンスというより、昔のかわいかったシトロエンをつくり続けるのが、環境的に難しくなったんじゃないでしょうか。
渕野:まさにそこだと思うんですよ。デザイナーがもっとミニマムでかわいらしいものにしたくても、「お客がそれをいくらで買うか?」っていうのは重要ですから。クルマを高くせざるを得ないなら、デザインも相応に箔(はく)が付いて見えないとダメなわけで。
清水:日本でも、だいたい400万円からのブランドになっちゃいましたからね。
渕野:高く売らなきゃって考えながら、どんどん付け足していたら、本来のあるべき姿や向かうべき先が見えなくなっちゃった。その結果が、シトロエンの現状かなと思います。
このプロポーションに、その顔ですか?
渕野:個人的にはシトロエンは好きなブランドだし、もうちょっと吹っ切れたら面白いんですけどね。前回触れたショーカー「オリ」は、すごくコテコテだけど面白かった、おもちゃ的な要素があって。要はグラフィックじゃなくて、存在自体、造形自体が、こんな風に強烈であってもいいと思うんです。
清水:そうですね。「シトロエン・アミ」みたいなのがまた出るんだったらワクワクするんだけど、今は逆に、フォルムは全然平凡で顔だけイジってるって状況ですから。正直、私もこの現状は過渡期だと思いたい。でも、シトロエンは新しいエンブレムもなんかダサくなってるんだよなぁ(参照)。プジョーもだけど(参照)。
渕野:プジョーの新エンブレムは、カッコよくないですか?
清水:いやー、私は前のヤツのほうが、断然好きだな。
渕野:クルマのデザインに関していえば、プジョーのほうは明快にスポーティーで、まだ受け入れやすいと思うんですよ。たとえば「3008」なんか、サイドは基本的にシンプルなんです。リフレクションがちょっと山なりにはなっているけど、ショルダーはきちっと前後に通している。で、フロントとリアで個性を出しているんです。特に、末広がりのリアのデザインはすごくいい。立体構成にも新しさがある。
ただ、このプロポーションとこのリアの割には、フロントがちょっと厚すぎやしないかと。もう少し、スポーティーなフロントのほうがいいんじゃないかな。ここだけSUV感が強すぎる気がするんですよ。ヘッドライトの位置が、プロポーションの割に高かったりして。
清水:顔だけが残念ですね。最近はプジョーも顔をイジりすぎ。個人的には、特にグリルのグラデーションが嫌なんですよ。あとは、この牙(デイライト)! 牙が3本になったのがどうにも煩(うるさ)すぎる。1本のときはよかったんだけど。
ほった:清水さんの「508」(参照)は1本歯ですよね。
清水:あれくらいだったらおしゃれなアクセントだけど、3本歯はもう、仮面ライダーの悪役でしょ!
渕野:2024年に「208」も3本になりましたね、マイナーチェンジで(参照)。ただ「リフター」はマイチェンでカッコよくなったと思いますよ、逆に(参照)。
清水:あ、いつのまにこうなってたんだ? これ、いいですね。牙もないし(笑)。
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はやりのグラデーショングリルに物申す
渕野:3008に話を戻すと、ほかでは全く見られないようなインテリアデザインとかはやっぱり面白いし、ここら辺はフランス車らしいなと思うんですよね。
清水:確かに、内装もおしゃれをキープしていますけど……。やっぱり顔が。顔なんだよなぁ。レクサスのグラデーショングリルは上品に感じるけど、プジョーのはブツブツしすぎてて気持ち悪い! 個人の感想だけど。
渕野:日産もやり始めていますよね、こういうデザイン。
ほった:前回話したルノーよりはマシだけど、集合体恐怖症の人にはキツいんじゃないかな。渕野さんはどうなんですか? グラデーショングリルに関しては。
渕野:デザイナーのやりたいことはわかります。これまではグリルとボディーを明確に分けていたじゃないですか。で、グリルをどんどんデカくして、存在感を出そうとしていた。でもデザイナーとしては、本来はグリルよりもボディーのほうをしっかり見せたいんです。そこでグリルをグラデーションにすることで、両方を見てもらえるようにする。そういう意図なんだろうと思います。でもちょっと、現状はグラフィックに走りすぎですね。
清水:モチーフとして悪いってんじゃなくて、さじ加減を誤ったと。
渕野:主観で申し訳ないですが、私も3008のグリルはちょっと、気持ち悪い(笑)。
ほった:渕野さんも!(一同笑)
渕野:これ、部品構成的にはどうなってるのかな? 多分、黒い部分は別パーツだと思うし、かなり凝ったデザインではあります。自分が前にいた会社じゃできないような構成だとは思うんですけど……。それが魅力につながってるかどうか。デザイナーのやりたいことより、それがお客さんにとってどうなのかっていう……。個人的に買うか? 買いたいか? って言われたら、あんまり買いたくないかも、こういうの(笑)。
清水:3008は、今のプジョーのなかでは落ち着いた顔の部類だけど、全般にやりすぎですよ、小細工を。でも、地元ヨーロッパではそんなに嫌われてないんだろうな。なんせ新型「ルノー・クリオ」の超獣顔も、受け入れられつつあるらしいし(参照)。
ほった:うへぇ。
渕野:フランス車が輸入車っていう存在になる、日本のユーザーだからそう見てしまうのかもしれませんね。208にしても、「前のほうがよかったな」っていうのは……。
清水:いやー。あれは前のほうがよかったですよ!
ほった:フランス車の顔が改良でおかしくなるのは、いつものパターンです。
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DSを忘れないで
渕野:(今までに挙げてきたクルマの写真を見ながら)それにしても、今のフランスのブランドって、顔まわりをイジりすぎるのをガマンできないのかな? 体質的に。日本のメーカーだと、大抵は律義に一線を守るんだけど。
清水:電気化シフトで大損こいて、デザインにかけられる予算がないから、手軽に変えられる顔イジりに走っているのかも。
渕野:それだけに時間がかかる場所でもあるんですけどね、顔のデザインって。自分もカーデザインの仕事をしていて、なかなか「これだ!」っていうのはできなかったんですよ。で、結局時間切れになる。ギリギリまで顔をこねくり回すのは、世界共通なのかなと思います。特に今のフランス車は、そこに集中しすぎている気がします。
清水:3ブランドとも、悪いサイクルに入っちゃってますよねぇ。
渕野:そうですねぇ……。
ほった:……いやいや3ブランドって、まだDSオートモビルが残ってますから。
清水:そうだった(焦)。
渕野:忘れてた忘れてた。
ほった:そんな風に言われちゃうのが、そもそも今のDSの、大きな問題ですよね。
渕野:DSって、まだ日本で販売してるんですか?
ほった:ご存命ですよ。
渕野:ごめんなさい。でも国内ではほとんど見ないなぁ。
清水:忘れておいてなんですが、DSはそんな悪くないですよ。「DS 4」なんか、真剣に買おうかと思ったくらいで。
渕野:とはいえ、やっぱり小さな細工が多いですね、全体的に。
清水:キラキラ勝負です。
ほった:DSはシトロエンとの差別化のためにも、キラキラにしなきゃいけない宿命ですから。
清水:「N°8」とか「DS 9」あたりなんかもう、世も末って感じ。滅亡へのカウントダウンですよ。
渕野:でも、突っ切ってる感じはしますね。
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販売に結びついてこその“いいデザイン”
清水:DSについてはもう、そもそもブランドを独立させたこと自体が大失敗だからなぁ。それ以前はよかったのよ。「シトロエンDS5」なんて、あれは憧れたなぁ。
ほった:10年も前の過ちを掘り返すのもかわいそうですよ。許してあげましょ。
渕野:それにコンセプトモデルを見ると、今のDSも結構カッコいいことをやろうとしているみたいですよ。(「SMトリビュート」の写真を見せる)
清水:うわ! これはメチャメチャカッコいい!
渕野:プロポーションはそこまで逸脱してない感じなので、実車化もできそうですね。
清水:できそうできそう! 個人的には、やっぱり過去の遺物をつくってもらいたい!(笑) 結局、元祖「DS」や「SM」はスゴかった、みたいなところに落ち着いちゃうから、クルマ好きは。
ほった:ワタシも、フランス車で一番好きなのは、初代シトロエン・アミですからねぇ。
清水:カーマニアの発展性のない話で締めてくれてありがとう(笑)。
渕野:まぁ、これぐらい勝負したらフランス車の価値みたいなものが出てきますよね。ステランティスはやっぱり、理想と現実のはざまでもがいてるんでしょう。
思い返すと、自分が会社に入って数年の頃は、シトロエンが自動車デザインの中心にいたと思うんですよ。ラインナップのどのクルマも、他社に参考にされていたメーカーでした。さっきのDS5あたりが出たぐらいの時代までは。でもねぇ、結局、販売に結びつかなかった。
ほった:そうなんですよね、みんなが絶賛した「C6」も……。
渕野:やっぱり自分としては、どんな個性的なクルマでも、販売に結びついていないとデザインを評価しづらいんです。単純に個性的なものを出して、プロダクトアウト的にクルマをつくるのは、今はもう難しいでしょう。フランス車全体が、そういう厳しいポジションにいる。
清水:ですね。ただ、フランス人の底力はすごいはずだから。
ほった:これからの復活に期待ということで。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=ルノー、ステランティス、日産自動車/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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