第110回:新型BMW i3(前編) ―BEV版「3シリーズ」のデザインはなぜ「ノイエクラッセ」から変節したのか?―
2026.04.29 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
いよいよ登場した新型「BMW i3」。スポーツセダンのベンチマーク「3シリーズ」がついに電気自動車(BEV)となったわけだが、そのデザインにはどんな見どころがあるのか? ショーカー「ビジョン ノイエクラッセ」から様変わりした理由とは? カーデザインの識者と考えた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
クルマ好きの“心のよりどころ”が大変革
webCGほった(以下、ほった):今回のお題は、BMWの新型i3でございます。
清水草一(以下、清水):「これが新型3シリーズだ!」と言ってもいいんだよね? 守旧派のクルマ好きにとってセンターラインに位置するモデルってわけだ。
ほった:エンジン車の3シリーズは別立てになりそうなんで、その辺はビミョーなところですが。ちなみに今回も、渕野さんご提案のテーマです。
渕野健太郎(以下、渕野):このクルマ、みなさんの感想はどうですか?
清水:うーん。デザイン以前に、BEVしか出ないっていうのがねぇ。
渕野:自分もそこが気になってますけど。
ほった:MINIと同じパターンですよね。BEVはBEV専用の新型で、エンジン車は旧型のビッグマイナーチェンジで継続、みたいな。3シリーズを全部BEVにしちゃえってのはBMW的にスゴい冒険だから、そこまでは一気にいけないのでしょう。
渕野:だろうと思います 。
清水:この形でエンジン車も出るってんなら、もっと議論に熱が入るんだけど、「BEVのみじゃ俺には関係ねーな!」ってなってしまうな。一応私、3シリーズを2台も買ったことあるんですけど。
ほった:そういえば乗ってましたね。
清水:ドイツ車はあんまり買ったことないんだけど、やっぱ3シリーズは別格なんだよ。
「E36」以来のデザインの刷新
渕野:これのベースになったコンセプトカーのビジョン ノイエクラッセは、清水さんが「すごくいい!」って言ってたじゃないですか(参照)。i3はその市販化なわけですけど、率直にどうですか?
清水:これぞ「伝統と革新」ってやつだと思います(笑)。「E36」(3代目3シリーズ)が出たときのようなイメージですね。あのときも、古きよき伝統と革新の見事な融合だなぁと思ったけど。
渕野:じゃ、ポジティブなんですね。
清水:デザインに関してはまったくポジティブです。E36が出たとき、ヘッドライトカバーが付いただけで、「これは違うんじゃないか!」っていう意見もあったけど、結局は名車だったじゃないですか。それに近い気がする。
渕野:そうですね。E36が出たのは1990年だと思いますけど、自分は中学生ぐらいで、雑誌で初めて見て、「おっ、これまでのBMWと全然違う!」って、すごくびっくりしました。前はこれだったわけですからね(「E30」を指して)。初代に沿った、1970年代を引きずってるようなクラシカルなデザインから、急にこれ(E36)になったわけです。清水さんがおっしゃったように、ヘッドランプがガラス製の昔ながらの丸目4灯から、E36では現代的な、ポリカのカバーが付きました。プロポーションも全然違う。今回のi3も、そういう風に見ているってことですね。
清水:ですね。E36も新型i3も、前型に対して塊感が増したというか、箱型から球体に近づいた感じですよね。私が重視するフロントフェイスについても、見事な伝統と革新になっている。
拡大 |
「ノイエクラッセ」とは全然違う!
渕野:いっぽうで、原型となったノイエクラッセと比べてどうなのか? っていうところを見たいんですけど……。いい悪いは別にして、ノイエクラッセと似てるかっていったら、個人的には全然違うと思っているんです。
ほった:ですね。
渕野:いちばん大きいのはプロポーション、サイドシルエットなんです。特にクルマの後ろ半分がまったく違う。例えばルーフのピークの位置を見ると、ノイエクラッセは今のトヨタやレクサスみたいに、Cピラーの付け根ぐらいがいちばん高くて、前にいくにしたがって下がってる。いっぽうi3は、ピークがそれより少し前にあります。これは普通のBMW的な形です。
さらにCピラーの太さ感とか落とし方とか、そういうのも従来のBMW的なものになっている。ノイエクラッセはクオーターガラスがまったくありませんでしたよね。i3もクオーターガラスはありませんが、加飾みたいなものをリアドアの後ろのほうに付けている。
ほった:リアドアを小さくしたかったのかな。この辺の処理も、すっかり普通のBMWですね。
渕野:おそらくはリアの乗降性なども考慮した結果だと思います。
清水:こうやって並べると、i3は断然、保守的になってますね。
渕野:リアエンドのシルエットはさらにそうです。ノイエクラッセでは上側が突き出た明快な逆スラントになっていて、そこがいちばんの見せ場だったんですけど、i3は割と普通な形になってる。フロントに関しても、ノイエクラッセはこちらも大胆な逆スラントでしたけど……i3ではバンパーのように下部が突き出るようになりました。
清水:全然逆スラントじゃなくなってますよねぇ。そこは残念だな。
渕野:最後にショルダーなんですが、ノイエクラッセはショルダーにピークがこないデザインだったんですね。SUV版の「iX3」のベースとなったコンセプトカー「ビジョン ノイエクラッセX」も同じ処理でした。いっぽうで、i3はしっかりとしたショルダーのピークがある。その結果、「割と普通になったな」っていうのが率直な印象でした。
清水:サイドはBMWとしてなんの違和感もないですよ、確かに。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
逆スラントのフロントマスクの難しさ
ほった:でも、コンセプトモデルと市販車が違うというのは、よくある話ですよね。
渕野:そうですね。ショーカーと違って、市販車は設計要件だのなんだのかんだの、いろんなことを考えてつくらなければいけないので。ただ、ノイエクラッセと新型i3の違いを見ると、これがすべて設計要件によるものとは言い切れない気がするんですよ。もうちょっとノイエ~に寄せられたんじゃないかと。フロントは難しいですけど、せめてほかのところは。そうしなかったのには、どういう事情があるのか、そこが気になります。
ほった:それはもう、コンセプトモデルの評判が悪かったのでは?
渕野:そうなんですかね?
清水:実際、物議は醸してたよね。ところで、今の話だと「フロントはノイエ~に似せられなくても仕方ない」って感じでしたけど、今はもう難しいんですか、逆スラントのお顔は?
渕野:自動車の前部にはラジエーターをはじめ、内部構造物がぎっしりありますからね。クラッシャブルゾーンもとらないといけない。逆スラントにしようとすると、それらを収める空間を確保したうえで、上部を突き出させるわけですから、ほぼ確実にオーバーハングを伸ばさないといけません。
例えばこれは「ミツオカM55」ですけど(写真を見せる)、このクルマ、フロントの内側にはベース車である「ホンダ・シビック」と同じ構造物が入っているわけですよ。そのうえで逆スラントにしたから、こんな風にノーズを伸ばさなければならなかったんでしょう。新型i3では、そこがまず厳しかったんじゃないかと。BMWのようなクルマでは、フロントオーバーハングはできるだけ短くしたいですからね。i3の顔も、上側はやや逆スラント気味ですけど、そのままでは構造物をクリアできないから、下部を張り出させたのかなと。
加えて逆スラントにすると、空力とか歩行者保護とか、いろんな問題が生じてきます。本来できないんですよ、今の設計要件では。正直、ショーカーのほうはわかっていて実現不可能なことをやっていた感じがします。フロントに関しては。
清水:ミツオカは頑張ったんですねぇ。
渕野:いやー。これは少量生産だからできたんじゃないですか。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
やろうと思えばできたはず
渕野:そんなわけで、顔まわりについては、なんとなく変更の理由はわかるんですけど……。そのほかの部分については、やりようがあったんじゃないかと思うんです。
例えばサイドのショルダーに関しては……これは韓国・Kia(キア)の「EV3」ですけど、ショルダー部分に張り出しがなくて、ドアの下のほうにピークがありますよね。それこそノイエクラッセみたいに。新型i3も、その気になればこの程度まではデザインを寄せられたんじゃないかと思います。でも、なぜそうしなかったのか。
確かに、設計的に難しいところはあったと思います。ドアの中にも構造物はあるし、引き込み式のドアハンドルが入らなかったのかもしれない。ノイエクラッセのつるっとした形状だと。こういう埋め込み式のドアハンドルを付けるには、内側にスペースが要りますからね。それで結局、ショルダーを張り出させることにしたのか。
ほった:いやぁ。あのBMWさまが設計要件でデザインを妥協しますかね? やっぱり、なで肩じゃ高級車としてカッコがつかなかったんじゃないですか?
渕野:そうですね。確かにKia EV3なんかを見ていると、i3ももうちょっとできたんじゃないかと思ってしまいます。だからここは、デザイン的に「やっぱりショルダーを通したほうがいい」ってことになったのかもしれない。
ほった:BMWは最近、デザイナーが変わったじゃないですか(参照)。それが影響してるというのは?
渕野:可能性はありますね。そもそも、なんかテイストが違う感じがしますからね、ノイエクラッセとi3では。フロントの目つきはまあまあ近いんですけど、リアのシルエットなんか見たら、i3はもうこれまでのBMWそのまま。
そんなこんなで、ノイエクラッセとは全然違うなっていうのが、自分の見立てなんです。
清水:正面顔がノイエクラッセなんで、みんな気づいてませんよね、そこには。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=BMW、newspress/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第133回:軽EVのデザインを考える(後編) ―「ラッコ」も「eスカイ」も夢がない!? 軽EVが“普通のデザイン”になった理由― 2026.10.21 「BYDラッコ」に「スズキeスカイ」と、新作が登場しては業界の話題をさらっている軽の電気自動車(EV)。しかし、そのデザインはどれも普通というか、エンジン車の延長線上にないか? 急速におとなしくなった軽EVの潮流を、カーデザインの識者と考えた。
-
第132回:軽EVのデザインを考える(前編) ―「スズキeスカイ」にみる“大衆車メーカー”スズキのスゴみ― 2026.10.14 希代の凡作か? 実はすべてが計算のうちか? スズキ初の軽乗用電気自動車「eスカイ」の造形を、カーデザインの識者と考察。つかみどころのないイメージの背景にある、“大衆車メーカー”スズキの慧眼(けいがん)に思いをはせた。
-
第131回:新型三菱パジェロ(後編) ―レトロブームには頼らない? 最新のデザイントレンドを追求した三菱の思惑― 2026.10.7 正式発表を間近に控え、ますますファンの間で話題が盛り上がっている新型「三菱パジェロ」。歴史的な旗艦の復活だというのに、三菱があえてレトロブームに乗らなかった理由とは? カーデザインの識者とともに、新型パジェロに見る最新のデザイントレンドを探る。
-
第130回:新型三菱パジェロ(前編) ―泥や雪より都会が似合う!? 高級&上質に進化した“関越キング”に思う― 2026.9.30 いよいよ登場した新型「三菱パジェロ」。復活を遂げたクロスカントリーSUVの雄だが、そのデザインは海や山やスキー場より、むしろ都会が似合うものに仕上がっていた!? 三菱が世に問う渾身の力作、その造形をカーデザインの識者とともに考察した。
-
第129回:日本のカーデザインに足りないもの・欠けているもの(後編) ―プロポーションの進化と「駄作」の消失に見る、日本車の現在地― 2026.9.23 今や欧州と立場が逆転? 世界的に見ても高い水準にあるという日本のカーデザインだが、そこには本当に足りないものはないのか? 今後、さらなる発展を望むうえで必要なものとはなにか? カーデザインの識者と、日本の自動車デザインの“今”を考えた。
-
NEW
第347回:カーマニア的に隠れた名車
2026.10.26カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。「トヨタ・アクアGRスポーツ」を夜の首都高に連れ出した。実はこう見えて初代「アクア」の元オーナー。最初期型のハンドリングは「フェラーリ458イタリア」を彷彿させたが、最新モデルの走りはどうか。 -
NEW
フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/7AT)/ゴルフRアドバンス(4WD/7AT)【試乗記】
2026.10.26試乗記1976年に誕生し50周年を迎えたフォルクスワーゲンのホットハッチ「ゴルフGTI」と、333PSの出力とハイテク満載の4WDシャシーを武器とする高性能モデル「ゴルフR」にサーキットで試乗。両者の違いとそれぞれの特徴を報告する。 -
NEW
ホンダが次世代ハイブリッドの名称を「Honda Hybrid」に決定 命名の理由とその背景を探る
2026.10.26デイリーコラム本田技研工業が2027年からグローバルで用いる次世代ハイブリッドシステムの名称を発表した。その名は「Honda Hybrid」である。「i-MMD」から「e:HEV」へと変更されて6年。慣れ親しんできた名称が変更される理由と、その背景を探る。 -
日産キックスX e-4ORCE(後編)
2026.10.25思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。箱根のワインディングロードでのドライブで、日産自慢の最新電動パワートレインと4輪制御技術はどんな印象を残したのだろうか。 -
レクサスES350h(FF/CVT)【試乗記】
2026.10.24試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。8代目となる新型ではボディーがググッと大きくなったほか、デザインも一気に現代的に。さらにトヨタグループでは最新鋭のパワーユニットを積むなど、中身も外身も刷新されている。2.5リッターハイブリッドモデルを試す。 -
第61回:「あえてのフツウ戦略」に脱帽! 「スズキeスカイ」の若きチーフエンジニアを直撃!
2026.10.23小沢コージの勢いまかせ!! リターンズスズキの軽乗用EV「eスカイ」が注目を集めている。小さなバッテリーにして一充電走行距離310kmを誇る電費のよさはもちろんのこと、スズキらしさ全開ともいえる価格設定もまたスゴい。若きチーフエンジニアの杉山達樹さんにその秘密を聞いた。















































