第115回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(後編) ―デザインもサイズも規格外! 魅惑のアメリカ車はなぜ“主役”になれないのか?―
2026.06.03 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
トヨタ&ホンダが発表した、米国生産車の日本導入計画。しかしアメリカには、規格外に面白いクルマがまだたくさんあるのだ! カーデザインの識者とともに魅惑の日本“未”導入車を探すとともに、魅力的なアメリカ車が、それでも主役になれない理由を考えた。
(前編に戻る)
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「タンドラ」はいいけど「ハイランダー」はどうなの?
webCGほった(以下、ほった):前回も触れたとおり、現状ではトヨタが「タンドラ」と「ハイランダー」を、ホンダが「パスポート」と「アキュラ・インテグラ」の日本導入を表明しているわけですが、皆さん、ほかに興味のある“アメリカ生産の日本車”ってあります?
渕野健太郎(以下、渕野):個人的には、「トヨタ・セコイア」の存在感にはひかれますね。タンドラのプラットフォームをベースにした3列シートのフルサイズSUVですが、あの広大で豊かな空間のたたずまいは、現在の日本車のラインナップには存在しないし、独特の価値を持っていますよね。
清水草一(以下、清水):セコイアもいいですね。ピックアップトラックって、日本じゃあんまり積むものがないような気がするし、実際に使うにしたって実用性は軽トラのほうが上でしょ。その点セコイアは、荷台のスペースが全部キャビンだから。
渕野:逆に、導入が発表されているハイランダーはモノコック構造のミドルサイズSUVで、途端にキャラクターが中途半端になる。こうした都市型SUVを、わざわざ日本で乗る意味があるのかな? 多くのユーザーは「それなら『ハリアー』や『RAV4』にします」ってなるんじゃないかと。
清水:それも同感ですね。マニアの心に響くのは、月販40台ぽっちっていう“レアもの感”だけじゃないかな。
ほった:ただ、同じモノコックのSUVでも、ホンダのパスポートはキャラクターが立ってるんじゃないですか? デザインのまとまりもいいと思うし。
清水:違和感がないぶん特別感も薄いよ。異国情緒がイマイチだから、現場のセールススタッフは「なんとか日本のナビを後付けできないか」みたいな要望に追われる気もする。
ほった:現代の自動車は、インフォテインメントシステムが車両の根本的な電子制御と連携してるんで、昔みたいに社外ナビをきれいにインストールするのが難しいんですよね。現実的な解決策は、すべて「Apple CarPlay」や「Android Auto」に委ねるという方向性になるんでしょう。
清水:それで納得してくれればいいけど。
日産にもスバルにも魅力的な車種がある
ほった:インテグラとパスポートっていうホンダの日本導入車種については、そもそもフルサイズの超巨大トラックや本格クロカンがないなかで、プレミアム性を最大限に表現できる選択肢がこの2台だったってことでしょう。その辺、むしろ日産のほうがタマには恵まれていると思うんですが。
渕野:最大の注目株は新型「ムラーノ」になるでしょう。海外専用モデルになって久しいですが、写真を見る限り、先進的で洗練された素晴らしいスタイリングだと思います。
清水:ムラーノは2027年初頭からの日本導入みたいだけど……。でもこれも、日本のクルマ好きが求める「アメリカっぽさ」は、あんまりないかなぁ。
渕野:そ、そうですか。
ほった:日産は、フルサイズピックアップの「タイタン」こそ廃止になっちゃったけど、ミドルサイズの「フロンティア」があるんだから、それを持ってくればいいのに。トヨタが「ハイラックス」を出したり、三菱が「トライトン」を出したりしているんだから。
あと、スバルなんかはトランプ騒動とか関係なしに、北米専用に生産している3列シートの大型SUV「アセント」を、今すぐにでも日本のラインナップに加えるべきじゃないですか? 同じような時期にデビューした、似たようなサイズの「マツダCX-8」は日本でもバカ売れしたんだし、「なんで入れないんだろ?」って不思議に思ってたくらいなんですよ。
渕野:アセントはいいクルマですよね。日本のファンがそのまま乗っても違和感のない、実用的なスバル車です。ボディーサイズに関しても、アメリカ専用車としては驚くほど常識的な枠に収まってますし。
清水:個人的には、常識的なのはちょっと……(笑)。
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みんな本当は導入なんかしたくない?
ほった:あと、マツダが北米で生産している「CX-50」なんかもよくないですか?
渕野:CX-50は力強いアウトドアテイストが前面に押し出されていて、現在の国内向けマツダ車のエレガント路線とは、明らかに一線を画していますね。全幅はかなり広いですけど、だからこそ表現できた独自のダイナミズムがある。日本に持ち込む価値は十分あると思います。
清水:確かにひと味違うけど、ひと味だからなぁ。
渕野:仮にマツダの北米生産車のなかから、独自の価値を拾い上げるとすれば、「CX-50」が最有力という話です。
ほった:とにかく、個人的には米国生産の日本車のなかにも、結構、魅力的な車種はあると思うんですよ。清水さんのご意見と違って(笑)。各社が微妙にへっぴり腰で、トヨタやホンダも極力投資をしぶっているのは、「そのうちトランプ大統領も退任して、関税リスクや外圧も立ち消えになるでしょ」っていう期待があるからじゃないですか?
清水:それは当然でしょ! そもそも販売予定台数がメチャ少ないし。
ほった:政治的なアリバイとしてポーズを示すことが目的で、街なかにあふれる必要は全くないわけですよね。実際にあふれたら困るけど。
清水:これは期間限定、数量限定の特別セールなんだと思うよ。だからこそ、好き者には価値がある。買えるのはトランプの任期終了までと思ってもいい!
ほった:だから清水さんは、「どうせなら極力お祭りグルマを持ってこい!」ってなるわけですね。
渕野:政治的なポーズというと、少し前のニュースで、日本の政治家が公用車に北米トヨタのハイランダーを導入してアピールしていましたね。
ほった:経済産業相の赤澤亮正さんでしたっけ。
清水:日米関税交渉の当事者だもんね。
ほった:それはそれは。胃に穴が開く思いだったでしょうね。
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アメリカには規格外に面白いクルマがたくさんある!
ほった:ここまではボーン・イン・USAの日本車の話でしたが、生粋のアメリカ車のなかにも、持ってくれば人気を博しそうなクルマはあるんですよね。筆頭は「フォード・ブロンコ」です!
清水:ブロンコは素晴らしいね。なにしろカッコいい! あのデザインなら「ディフェンダー」や「メルセデス・ベンツGクラス」とタメ張れるでしょ。販売チャンネルさえちゃんとしてれば、間違いなくヒットしそうな気がする。
ほった:あとはやっぱり、同じくフォードの「マスタング」です。なんせ「世界で一番売れてるスポーツカー」ですから。皆さんご存じですか? 世界一は「マツダ・ロードスター」でも「ポルシェ911」でもなく、マスタングなんですよ!
まぁフォードは日本から撤退して久しいので(2016年)、どちらも導入の可能性は絶望的ですが。わが愛(いと)しのダッジも……。
清水:復活の気配もゼロ。
ほった:逆に、今でも日本にチャンネルが残っているブランドだと、ジープの「ワゴニア/ワゴニアL」とかを入れてほしいですね。
渕野:そういったスケールの大きいラグジュアリーSUVを日本に持ち込むことが、今はシステム上可能なわけですよね。過激なアメリカンモンスターが、特例措置という政治の波に乗ってショールームに並んだら、最高にエキサイティングなんだけど(笑)。
ほった:バケモノといえば「シボレー・コルベット」の超過激モデル「ZR1」「ZR1X」なんかも、今回の特例枠を使って日本に持ち込めたらステキなんだけどなぁ。フェラーリもランボも、尻尾を巻いて逃げ出しますよ。
清水:アメリカは国連基準を採用してないから、騒音規制が昔のまんまなんだよね。
ほった:そうなんです。だからコルベットの“センタークアッド”(北米仕様のセンター4本出しマフラー。中央の2本はまさかの直管!)なんかが許されたりしているわけです。いずれにしろ、アメリカにはまだ、規格外に面白いブツが無数に転がってますよ!
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それでもアメリカ車が日陰者扱いされる理由
ほった:それにしても、日本のクルマ好きって、なんだかんだでアメ車……というかアメ車のデザインが嫌いじゃないですよね。今はやりの1960~1970年代の旧車なんて、まんまマッスルカーのミニチュア版だし、アメ車風デザインの「ミツオカ・バディ」「ロックスター」を取り上げれば、webCGのアクセスもぎゅんぎゅんに急上昇。自動翻訳が稼働したSNSでは、日本人とアメリカ人がアメ車談義で盛り上がってますよ。なのになんで、日本だとアメ車はビミョーに日陰者扱いなんでしょう?
清水:それは単純だよ。環境が違いすぎてサイズが合わないってことに尽きるな。
渕野:開発現場にいた人間の視点で分析すると、日本の日常生活において、アメ車はどうしても自分事として捉えにくいですよね。
ほった:デカさが魅力なのに、デカいがゆえに敬遠されるジレンマ(泣)。
清水:一般ユーザーだろうとジャーナリストだろうと、日本人がアメ車のフルサイズピックアップをゲタとして乗りまわす可能性はほぼ0%でしょ。人間、縁のないものには興味や学習意欲が湧かないじゃない。ミツオカの「M55」ならココロひかれるけど(笑)。
ほった:でもほら、やっぱ清水さんも、アメ車のデザインは好きなんじゃないですか。
清水:あれくらいサイズが小さければね~。
渕野:ただデザインのトレンドを見ても、かつての黄金期に比べれば、現代の一般的なアメリカ車は驚くほどヨーロッパ化していますよ。昔ながらのアクの強さは急速に薄れています。
ほった:ですねぇ。カーデザインの均一化は世界的な潮流だけど(参照)、アメ車もそこからは逃れられない。
渕野:最後の砦(とりで)がフルサイズピックアップトラックということなんでしょう。乗用車に関しては……皮肉な話ですが、今現在、かつてのアメ車のような「ムダに広くて長くて堂々としたたたずまい」を最も色濃く表現しているのは、ホンダの「アコード」だと思いますよ。
清水:マジすか? 私もアコードは最高にカッコいいと思います!(笑)
渕野:アコードは、現代のあらゆるアメリカの乗用車よりも、アメ車らしい豊かなプロポーションを持っています。これは面白い逆転現象ですね。
清水:ほったくん、君の負けだよ。
ほった:勝ちとか負けとか、そういう話じゃないんですって。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=ステランティス、スバル、ゼネラルモーターズ、トヨタ自動車、日産自動車、フォード、本田技研工業、マツダ、ミツオカ自動車、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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