アフターコロナの2023年、どんな輸入車が売れていた?
2024.03.04 デイリーコラムやっぱり強いドイツ勢
いわゆるコロナ禍もおおむね落ち着き、インバウンドの人々も戻ってきた。聞くところによれば、長野県の白馬村あたりでは「もはや英語を村の公用語にしちゃったほうがいいのでは?」ぐらいの状況であるらしい。
だが日本国内でフツーに暮らしている筆者のような者からすれば、物価はやたらと上がり、その割に原稿料単価は10年前とまったく変わらないということで、「好景気である」との肌感覚はほとんどない。
そんな状況下で、新車価格が高止まりしているガイシャの売れ行きはどうなっていたのか? JAIA(日本自動車輸入組合)がまとめた2023年の輸入新車登録台数データをもとに、もろもろチェックしてみることにしよう。
まずはシンプルに2023年1月~12月の「ブランド別登録台数上位十傑」を見てみると、結果は以下のとおりであった。ちなみにカッコ内の数字は前年に対しての割合である。
- 1位 メルセデス・ベンツ 5万1228台(97.8%)
- 2位 BMW 3万4501台(111.7%)
- 3位 フォルクスワーゲン 3万1809台(98.7%)
- 4位 アウディ 2万4632台(118.7%)
- 5位 MINI 1万7796台(92.6%)
- 6位 ボルボ 1万3376台(88.7%)
- 7位 ジープ 1万1174台(117.9%)
- 8位 ランドローバー 9096台(202.7%)
- 9位 プジョー 8126台(95.0%)
- 10位 ポルシェ 8002台(111.2%)
この結果に関しては「順当」といったところだろう。筆者が日ごろ「都内の路上で目にする数」という肌感覚ともおおむね合致している。MINIとボルボに若干失速の気配が見て取れるが、われわれユーザーにできることは特にないので、各インポーターの奮起と創意工夫に期待するほかない。
また10位に入ったポルシェよりも下位となったルノー(7096台/11位)も、高級スポーツカーブランド以下の台数では大衆車ブランドとしてお話にならないので、2024年はぜひがんばっていただきたいと切に願うものである。
あるところにはあるもんだ
お次はデータから「2023年に躍進したブランド」を抽出してみよう。同じく数字は2023年1月~12月の登録台数で、カッコ内が前年比である。
- 1位 BYD 1446台(1万3145.5%)
- 2位 ランドローバー 9096台(202.7%)
- 3位 Mini 2台(200.0%)
- 4位 マセラティ 1734台(139.8%)
- 5位 アストンマーティン 457台(130.9%)
ぶっちぎりの飛躍が見られたのは中国のBYD。「前年比1万3145.5%」(つまり約131倍)という、システム上のエラーか人為的な入力ミスが発生した際にしか見たことがないような数字である。まぁ前年の登録台数が11台にすぎなかったゆえの数字だが、日本での販売車種が「ATTO 3」しかなかった2023年8月までは月販約90台のペースで比較的静かに推移し、「ドルフィン」が発売された同年9月以降は月販約190台のペースへと伸長。この春には「シール」が導入されるということもあって、BYDは2024年もそれなりに躍進することだろう。さすがに前年比1万3145.5%というのはもう二度とないだろうが。
躍進率2位のランドローバーは、2023年の第1四半期にデリバリーが始まった新型「レンジローバー スポーツ」や、その後も年次改良モデルが続々とリリースされた各車が順調に売れたもよう。ランドローバーのクルマといえば、相対的にお安い「レンジローバー・イヴォークS D200」でも新車価格は735万円。10年前と同じ単価でちまちま原稿を書いている身からすると「金というのは、あるところにはあるのだなぁ……」という、極めてありがちな感想しか出てこない。
3位のMiniは2022年の1台から2台に“倍増”したということで200.0%。この2台は、JAIAによれば「(BMW傘下となるより前の)オリジナルMiniが新規登録されたのでしょう」とのこと。いずれにせよ“ノイズ”でしかないので、次に行こう。
4位のマセラティは当初月販数十台レベルで推移していたが、SUV「グレカーレ」のデリバリーが始まると月販100台以上、月によっては200台以上のブランドへとプチ躍進。前述した「金というのは、あるところには……」ということと、世の中でいまだ続くSUV人気を裏づけるかたちとなった。そしてアストンマーティンも、当然ながら数は多くないが、2023年中は毎月のように50台前後が新規に登録された。くどいのでこれで最後にするが、「金というのは……」の世界である。
期待と心配が入り交じる
最後に「2023年に数字を落としたブランド」を抽出してみよう。数字の見方は同様である。
- 1位 アバルト 1466台(55.4%)
- 2位 ジャガー 697台(68.7%)
- 3位 キャデラック 575台(69.4%)
- 4位 フィアット 4730台(82.1%)
- 5位 ルノー 7096台(82.4%)
ワーストとなったアバルトは、エンジン車である「595/695」系の一本足打法が長らく続いて超モデル末期となり、現在は2023年10月に上陸したBEV「500e」との端境期にあるということで、この結果もやむを得ないといえる。とはいえ今後「BEVのアバルト」がサソリファン各位にどう受け入れられるかは未知数であり、さらなる凋落(ちょうらく)もあり得るのかもしれない。これはアバルト500eの問題というよりは「そもそもBEVって今後どうなるんだ?」という部分にひもづく話だろう。
アバルト以上に心配なのは2番目のジャガーだ。前年比68.7%というのもさることながら、「1年間で697台しか売れなかった」という部分が大問題である。
もちろんジャガーのクルマはトヨタの「アクア」とか「ヴォクシー」などと同様にほいほい売れるものではなく、またほいほい売れてしまってはいけないブランドでもあるだろう。とはいえさすがに697台はキツい。これは「フェラーリ(2023年は1395台)の半分だが、ヒョンデ(同489台)よりはやや多い」ぐらいの数字である。
今後はある程度の数字(年間2000台ぐらい)にはなる車種ラインナップにしていくのか。それとも、現状程度の登録台数でも名声を守ることができるブランドにしていくのか。そのあたりの整理というか“再構築”が、日本におけるジャガーブランドには必要であるように思えてならない。
(文=玉川ニコ/写真=メルセデス・ベンツ日本、フォルクスワーゲン ジャパン、BYDオートジャパン、ジャガー・ランドローバー・ジャパン、マセラティ ジャパン、ステランティス ジャパン、ルノー・ジャポン、webCG/編集=関 顕也)

玉川 ニコ
自動車ライター。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、自動車出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。愛車は「スバル・レヴォーグSTI Sport R EX Black Interior Selection」。
-
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代NEW 2025.9.17 トランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。
-
スズキが未来の技術戦略を発表! “身近なクルマ”にこだわるメーカーが示した問題提起 2025.9.15 スズキが、劇的な車両の軽量化をかなえる「Sライト」や、次世代パワートレインなどの開発状況を発表。未来の自動車はどうあるべきか? どうすれば、生活に寄りそうクルマを提供し続けられるのか? 彼らの示した問題提起と、“身近なクルマ”の未来を考える。
-
新型スーパーカー「フェノメノ」に見る“ランボルギーニの今とこれから” 2025.9.12 新型スーパーカー「フェノメノ」の発表会で、旧知の仲でもあるランボルギーニのトップ4とモータージャーナリスト西川 淳が会談。特別な場だからこそ聞けた、“つくり手の思い”や同ブランドの今後の商品戦略を報告する。
-
オヤジ世代は感涙!? 新型「ホンダ・プレリュード」にまつわるアレやコレ 2025.9.11 何かと話題の新型「ホンダ・プレリュード」。24年の時を経た登場までには、ホンダの社内でもアレやコレやがあったもよう。ここではクルマの本筋からは少し離れて、開発時のこぼれ話や正式リリースにあたって耳にしたエピソードをいくつか。
-
「日産GT-R」が生産終了 18年のモデルライフを支えた“人の力” 2025.9.10 2025年8月26日に「日産GT-R」の最後の一台が栃木工場を後にした。圧倒的な速さや独自のメカニズム、デビュー当初の異例の低価格など、18年ものモデルライフでありながら、話題には事欠かなかった。GT-Rを支えた人々の物語をお届けする。
-
NEW
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学
2025.9.17エディターから一言栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。 -
NEW
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】
2025.9.17試乗記最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。 -
NEW
第85回:ステランティスの3兄弟を総括する(その3) ―「ジープ・アベンジャー」にただよう“コレジャナイ感”の正体―
2025.9.17カーデザイン曼荼羅ステランティスの将来を占う、コンパクトSUV 3兄弟のデザインを大考察! 最終回のお題は「ジープ・アベンジャー」だ。3兄弟のなかでもとくに影が薄いと言わざるを得ない一台だが、それはなぜか? ただよう“コレジャナイ感”の正体とは? 有識者と考えた。 -
NEW
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代
2025.9.17デイリーコラムトランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。 -
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。