第89回:「ホンダ・プレリュード」を再考する(後編) ―全部ハズしたら全部ハマった! “ズレ”が生んだ新しい価値観―
2025.10.29 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
24年ぶりの復活もあって、いま大いに注目を集めている新型「ホンダ・プレリュード」。すごくスポーティーなわけでも、ストレートにカッコいいわけでもないこのクルマが、これほど話題を呼んでいるのはなぜか? カーデザインの識者と考える。
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縮小する“普通のクーペ”市場
webCGほった(以下、ほった):さて、今回は発売を境に世間の評価が変わったんじゃないか? という新型プレリュードのお話をしているわけですが。プロトタイプのころと今とで違う点といえば、インテリアをがっつり見られるようになったことも挙げられますけど。
渕野健太郎(以下、渕野):基本のレイアウトは「シビック」とそんな変わらないと思いますけど、外側を変えて、センターコンソールをしっかりつくり込んだような印象です。そんなに新しいことはしてないんですけどね。
ほった:このクルマだと、押しボタン式のシフトセレクターが結構しっくりきますね。
渕野:このクルマの場合はね。
ほった:内装の色が、ほとんどブルーと白の組み合わせなんですよね。ボディーカラーが白の場合だけ、ブルーと黒の組み合わせも選べる。アメリカでもこの組み合わせだけなのかな? あっちの人ってブラウンが好きなイメージなんだけど。
清水草一(以下、清水):そうなの?
ほった:ワタシの偏見ですがね(笑)。
渕野:アメリカというと、以前はこういうクーペって、若い女性が最初に買うクルマってイメージでしたよね。
清水:セクレタリーカー。
渕野:今はそういうトレンドはないですよね。
清水:ないですねー。そもそもセクレタリー=女性っていう先入観も、今のご時世、禁止では?
ほった:自分で言っておいて(笑)。まぁセクレタリーカーじゃなくてスペシャリティークーペってジャンルで見ても、マーケットはほぼ消滅していますがね。
この値づけは高いの? そうでもないの?
ほった:うーん。前回もお値段の話になりましたけど、数がはけないからこそ、高い値づけにして単価で稼ごうってことにしたのかな? アメリカではいくらなんだろう?(みんなでググる)
渕野:……だいたい4万ドルからって報道が出ていますね。
清水:円換算で600万円ちょいから?
渕野:向こうの金銭感覚でいうと、400万円くらいですか?
清水:平均収入が日本の3倍近いんで、もうちょっと安い感じでは。
ほった:いやいや。あっちでは少数の大金持ちが富をガメてますから。普通の人の金銭感覚は、案外、日本と同じような感じじゃないかな。
渕野:だとするとですよ。ホンダってプレミアムなブランドではないじゃないですか、北米でも。それでこのクルマの値づけはどうなんだろう?
ほった:確かにプレミアムなブランドじゃないですけど、ホンダってアメリカではやたらと好感度が高いですからね。4万ドルからのSUVやミニバン、トラックもちゃんと買ってもらえているし。さっきと言ってることが逆になっちゃいますけど(笑)、プレリュードのこのお値段も、そんな法外なものじゃないかもしれませんよ。
日本の話に戻りますけど、個人的にはもうちょっと高くてもいいから、「ホンダセンシング360+(プラス)」をブチ込んだグレードもあったらよかったんじゃないかなと。「アコード」みたいに。
渕野:360+って、どういうところがすごいんですか?
ほった:アイズオフはできないけど、手放し運転が渋滞時だけじゃなくて高速走行にも対応しているんです。新しいイメージのクルマだし、そういうハイテクを付加価値にするのもアリじゃないかと。半自動運転で高速道路をロードグライド! みたいな。
清水:俺はそっちより、シートをゴージャスにしてほしいな。ベンチレーションとマッサージがないと、中高年は満足できないよ!
ほった:なんか、あんまりデザインの話じゃなくなってきましたね(笑)。
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「プレリュード」と「シビック タイプR」のきれいな対比
清水:プレリュードはデザイン的にも、いやコンセプトからして、ちょっとズレてるじゃないですか。いや、だいぶズレてる。それがいいんだと思うんですよ。昔のプレリュードっぽくない形だし、需要なさそうだし、意外性のカタマリでしょ。
ほった:そのご意見、相当にカーマニア的ですよ!
清水:裏の裏は正解みたいな。
ほった:確かに3代目のリバイバルより、このカタチのほうが、今の時代にストッとはまる感じがしますね。
渕野:いや、そうかもしれません。それでもやっぱり思うのは、「プレリュード」っていう車名の重みですよね。こんなに強いんだなあと。
清水:「トヨタ86」や「スープラ」の復活のときは、そんなでもなかったんだけど、なぜかプレリュードはインパクト絶大。ミイラが生き返ったから?
ほった:清水さんが興味がなかっただけでしょ(笑)。86のときだって、世間は大騒ぎでしたよ。
清水:いやいや。俺ら世代にとっては、プレリュード復活のほうが断然一大事なんだって。これは誰も望んでなかったし、なんの役にも立たないからかもしれない。86やスープラはモータースポーツの役に立つけど、プレリュードはそれすらない。ムダにスタイリッシュなだけ(笑)。
ほった:SUPER GTのGT500車両は、プレリュードになるっぽいですけど。
清水:ちゃちゃ入れないでよ(笑)。とにかく、私はずっと「プレリュード タイプRを出してほしい」と言ってたけど(参照)、ダメだな。出したらダメだ。それは全然新しくない。個人的には、シビック タイプRにはひかれないんです。もうそういう暑苦しいのは卒業してるんで。
ほった:こないだ「マセラティ・クアトロポルテ」買ったのに?
清水:あれは化石だから。プレリュードと「シビック タイプR(レーシングブラックパッケージ)」は値段が同じだけど、どっちを選ぶかって言われたら、自分はプレリュードだな。
ほった:ワタシは断然タイプR派ですが、清水さんの言わんとしていることは、すっごくわかります。確かにタイプRは既存の価値観のクルマですよね。そう考えると、プレリュードとタイプRの対比はとてもきれいですね。ホンダの人はこれを狙ってやったのかな? それとも、偶然出来上がっちゃったのか。
清水:狙いどおりだったらすごいね。千里眼。とにかく結果的によかった。
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少しずつズレていることが独創性につながっている
ほった:それにしても、この世間の反応はちょっと予想外でしたね。前回のジャパンモビリティショーでコンセプトモデルが出たときは(参照)、世間の反応も冷たくて、失礼ですけど正直「コケちゃったか」って思ったんですが。
さすがに今の盛り上がりは瞬間最大風速でしょうけど、これだけ世間が騒ぐと、若い人も「なんなんだろ?」ってなって、そこからまた広がってくような気もします。
渕野:プレリュードの名前をつけたことも大成功ですよね。自分にとってプレリュードは、世代がズレてるのでそんなに思い入れはない車名なんですけど。
清水:デザインもね。渕野さんが2年前に指摘した(その1、その2)、ボディー前部が高いっていう部分も、結果的によかったなと思うんですよ。バカウケした3代目なんか「サスペンションストロークがないんじゃ?」っていうくらいボンネットが低かったのに、その真逆でしょ。全然違うところがいいんですよ。クルマは低いほどカッコいいっていう常識も、もう暑苦しい。
ほった:そういうのが欲しければ古いクルマに乗ればいいと。
清水:そう。そういうのの本物はクラシックスポーツカーだけ!
渕野:私はプロポーションがまったく異なるのでそう思わないのですが、顔まわりが「トヨタ・プリウス」だという意見もありますよね?
清水:いやー似てるとは思いますよ。でも、こういうヘッドライトは今のスタンダードだから。1980年代のリトラクタブルみたいな。
渕野:自分もそこらへんは全然気になりません。それと、いま清水さんが言われた「エンジンフードが高いところが、むしろいい」というのは、フロントオーバーハングがこれだけ長いからそう見せられているところもあって、そんなふうに方々がちょっとずつズレている感じが、オリジナリティーにつながっているのかなって気もします。
清水:全部ハズしたら、それが全部ハマったクルマですね(笑)。
渕野:こういうクルマがホンダのイメージリーダーになったらいいですよね。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=本田技研工業、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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