第60回:新世代ランボルギーニの憂鬱(後編) ―今の時代、ワルで危険なスーパーカーは流行らない!?―
2025.03.05 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
既存のモデルから微妙に路線変更した、ランボルギーニのニューモデル「レヴエルト」と「テメラリオ」。ワルで危険な匂いがしたイタリアのスーパーカーは、この先どこへ向かうのか? 最新モデルやコンセプトカーを観察し、カーデザインの有識者とともに考えた。
(前編に戻る)
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「なんか変えなきゃ!」で生まれたデザインか?
清水草一(以下、清水):とにかく、大小のミドシップ・ランボルギーニが新型になったわけですが、レヴエルトもテメラリオも、あんまり熱狂は生んでない気がするんです。
webCGほった(以下、ほった):そうですね。前のモデルほど注目を浴びてる感じはないかな。
渕野健太郎(以下、渕野):いやもう、スーパーカー自体の注目度が、そこまでじゃなくなっているでしょう。自分は名前も覚えられないですよ(笑)。
ほった:そうそう。最近のはホントに名前が覚えられない!
清水:発音しづらいもんね、テメラリオもレヴエルトも。「12(ドーディチ)チリンドリ」に至っては難問レベル(笑)。
渕野:自分は、今回のテーマを聞いて予習して、初めて「あ、今のランボルギーニってこうなってたんだ」って思ったくらいです。テメラリオとレヴエルトは、まるでデザインが違うことに驚きました。
清水:世間一般が最新のスーパーカーにまったく興味を持たなくなったいっぽうで、富裕層は争って買ってるんだから、恐るべき分断ですよ!
渕野:ランボルギーニは、さらに内部でも分断ですよね。すごくコンサバなテメラリオに対して、レヴエルトはフロントとリアを完全に分離してるような、アグレッシブなデザインになってる。共通するのは、前回もちょっと触れた、フロントの左右とサイドの開口部の反復(写真参照)、そこだけかなと思います。それくらい違う。
ほった:ワタシは、結局いつもの「変えられないんだけど、なんか変えなきゃ!」のパターンなのかと思いましたけど。「カウンタック」以来のモノフォルムは不文律で手がつけらんないし、そもそも設計要件の厳しいミドシップじゃプロポーションもほとんどイジれないでしょ? そんななかで、なんとかして前のクルマと違いを見せようとしたら、こうなったって感じで。
渕野:その辺は、デザイナーも本当に大変だろうと思います。
ぶっ飛んだ感じがしないのよ!
渕野:ただいっぽうで、「ポルシェ911」なんかは形を変えないことで価値を築いてきたじゃないですか。ターゲットユーザーはランボルギーニとは違うでしょうけど、ポルシェみたいなやり方もなくはないわけですよ。ずっと変わらないことが価値っていう。
清水:いや、僕はランボルギーニも、基本的には変わってないと思いますよ。
ほった:まぁ確かに、あのシルエットはランボ伝統のものですよね。
渕野:逆にそうだとしたら……要は、シルエットを見ただけでランボルギーニってわかるんだったら、細部はもっとシンプルでもいいんじゃないですか? 自分にも「なんとしてでも変えないといけない」っていう感じに見えますよ。……まぁ正直、スーパーカーデザインの本当のところまでは、自分も理解できてはいないんですけど。
清水:ランボルギーニを本当に好きな人たちの気持ちは、自分にもよくわからないけど、たぶん細かいことはどうでもよくて、「ランボルギーニであればすべて善し!」なんじゃないかな。そして新型をいち早く手に入れられれば……。ただ、ちょっと俯瞰(ふかん)で眺めると、今のレヴエルトとテメラリオのデザインは、前型に比べるといまひとつ、なのでは?
ほった:そうですね。記事つくってても、なんか「ドカーン!」ときてる手応えはないんですよね。
清水:ランボルギーニって、買っちゃいけないクルマの筆頭でしょ(笑)。こんなの買ったら人間おしまい、みたいな。(全員笑)
ほった:それを清水さんは買ったわけですよね(参照)。
清水:周囲にビビられるのってスゴい快感じゃない! そういうのに憧れてたんだよ~。で、「買ったら人間おしまい」っていうクルマとして見ると……レヴエルトよりもアヴェンタドールのほうが、おしまいな感じがしたんですよ。レヴエルトはちょっと小手先でデザインした感じがあるからかな。アヴェンタはもっと本質的にバカだった。アントニオ猪木が言う「馬鹿になれ」だった。バカなのにシンプルでキレイだったんですよ。
ほった:ボディー全体に電飾すんのが似合いましたしね(笑)。
清水:そういうのも似合っちゃう。懐が深かった。
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実はクルマらしかった「アヴェンタドール」
渕野:アヴェンタドールは、実はああ見えて、デザインが「クルマっぽかった」んですよ、ある意味。例えばボディーの一番下の部分。サイドシルや前後バンパー下が、ちゃんとしまい込まれてるでしょう? それによってクルマ全体のデザインに一体感が生まれ「軸感や塊感」を表現しているんですね。対してレヴエルトは、そこが開いて見えます。強いて言うなら、デザインより空力を重視したレーシングカーに近いですね。
清水:ボディーの下側が丸まってなくて、地面に対して開いてるんですね。
渕野:そうです。まぁタイヤがでかいので、それでも全然大丈夫なんですけど、デザインのつくりが……一般的なカーデザインの感覚で言うと、アヴェンタドールのほうが「クルマっぽいデザイン」をしてるんです。
ほった:カタマリに近いってことですか?
清水:それに対してレヴエルトはヒラメっぽい?(笑)
渕野:ですね。アヴェンタドールは全体的なプロポーションがすごくわかりやすいし、「そうだよね」っていう納得感がある。でもレヴエルトは難しいです。普通のカーデザインの尺度じゃ理解できない。まぁアヴェンタドールも、フロントの三角形にトガった部分だけはわかりませんけど(笑)。
清水:あれば重要ですよ! あれがないとツルッとキレイになりすぎちゃう。ランボルギーニのデザインは、美の暴力でなければならない!(笑)
ほった:確かにこれがないと、なんかちょっと「ハッタリが足りんな」って感じるかも(笑)。
清水:なんだかんだでランボはそうじゃないとね……。カウンタックもさ、シンプルな「LP400」が最高! って言いつつ、リアウイングやオーバーフェンダーが付いた“ウルフカウンタック”の人気にはかなわないでしょ。アヴェンタも、素のヤツが一番キレイなんだけど、ビラビラが付いてるほうが格が上って見えちゃう。レヴエルトも、これからもっとビラビラが付いて、もっとギトギトしてくれば、本領を発揮するかもしれない。
ほった:ステップアップ前提のデザインですね。
渕野:やっぱあれですか、フェラーリのオーナーとはそこは全然違うわけですか?
清水:いやー、全然でもないですよ。フェラーリがリアウイング付けてくれないだけで(笑)。付けてくれれば、きっとみんな喜びます。
ほった:自分で付けるのはダメ?
清水:今は基本的にダメになったね。それをやったらニセモノだから。フェラーリもランボルギーニも、本社からいただく勲章みたいなもんになったから。
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「テメラリオ」の理知的デザインに思う
渕野:それとこの、テメラリオのコンサバなデザインについてですけど、これはお客さんの層を広げたいんじゃないかな? 「ランボルギーニ! ランボルギーニ!」じゃない、もっと普通の人たちにも買ってもらいたい。もうちょっと理性的な客層っていうか。「ウラカン」もそれに近かったんでしょうけど。
清水:ひょっとしたらそうかもですね。日本人にはその感覚はゼロですけど。
渕野:ないですか?
清水:「ドアが上に開くのはハデすぎるからちょっと(汗)」なんていう人は、絶対ランボルギーニなんか買いませんよ(笑)。日本ではランボはドアですから。
渕野:そうなんですねぇ……。テメラリオは、ドア断面は丸いんだけど、ちょっとボディーのキャラクターをつまんだようなところもあって、そういうところも普通のクルマのデザイン感覚に近いと思うんです。
ほった:キャラクターをつまんだというと?
渕野:アウディとかもそうですけど、質感とかシャープさを出すために、ちょっとプレスラインでボディーにアクセントをつけたりするじゃないですか(写真参照)。そういう細かい見せ方の部分をとっても、やっぱりこのデザインは、一般の人に向けてやってるんじゃないかなと。
清水:カウンタックの刷り込みがない国では、こういうのが受けるのかな……。
渕野さん:テメラリオ、なんかこれずっと見てたら、悪くないなと思えてきたんですよ。これまでのランボルギーニの荒々しい感じとは違うってことで、新たな層に認められるかもしれない。
清水:このクルマが仮にフェラーリだったら、「いいのを出してくれた!」って言われたかもしれない。「F355」のリバイバルとして、エンジンもV8だし。でも、ランボルギーニなので……。
ほった:ランボルギーニも不良を卒業したいんじゃないですか? 「ランザドール」を見ても、そう思いません?(画像を見せる)
清水:えっ! これ、ランボなの?
ほった:そうですよ。ランボ初の電気自動車(BEV)。まだコンセプトモデルの段階ですが。
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不良より“普通の人”に買ってほしい
清水:うーん……。このクルマに関しては、適度に遺産を引き継ぎつつ、マトモになろうとしてるっぽいね。
ほった:だしょう?
清水:サイドにカウンタックを感じるなー。正統派への回帰を。
渕野:でも、これはテメラリオとはちょっと狙いが違いますね。ランザドールは足もとでかなりカウンタック感を出してますけど、テメラリオはそうじゃない。ホイールアーチは基本的にマルで、リアフェンダーの前側の装飾に少し、ほんのちょっとだけ“カウンタック感”が見える。おそらく極力シンプルにしようと思いつつ、ここだけ昔ながらのランボ感を出したのかな。
ほった:ランザドールの下半身は、単純に同じ腰高モデルの「ウルス」に寄せたのかなって気がしなくもないですけど。とにかく、ランボもそろそろ「これを買ったら人間おしまい!」路線を脱したいんじゃないですか? いつまでもウォルター・ウルフだか「LP500S」だかで、『蘇る金狼』やってるわけにもいかないでしょ。
清水:そうね。今日び、犯罪で稼いだ金で買って高笑いっていうイメージじゃねぇ。
ほった:もうちょっと正業の方に買ってほしいんだと思いますよ(笑)。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=ランボルギーニ、ポルシェ、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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