第59回:新世代ランボルギーニの憂鬱(前編) ―アナタは「テメラリオ」の形を覚えてますか?―
2025.02.26 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
V12の「レヴエルト」に続いて“ベビーランボ”の「テメラリオ」が登場し、新時代のデザインが見えてきたランボルギーニ。しかしアナタは、ニュースで見たレヴエルトやテメラリオの形を、覚えてますか? 変革の時を迎えた猛牛のカーデザインを、識者と考える。
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「テメラリオ」のデザインに思う
webCGほった(以下、ほった):今回は清水さんの提案で、最近のランボルギーニのデザインについて取り上げたいと思います。確か、「新しいラインナップが出そろったから」みたいな話をされてましたけど。
清水草一(以下、清水):そうそう、そうなの。
ほった:まぁラインナップっつっても3車種しかないんですけどね。新しくなっていないのは、SUVの「ウルス」だけですか。
清水:だね。ミドシップは大きいのも小さいのもフルチェンジした。これが新しいベビーランボのテメラリオだけど(写真を見せる)、発表会で実物を見て、だいぶ拍子抜けだったのよ。「えーっ、こんなにおとなしいの!?」って。
渕野健太郎(以下、渕野):そうですよねぇ。自分もスーパーカーのデザインはちょっとやったことなくて、いかんせん専門外なんで、普通のクルマの尺度で語ると「違うわ!」って言われそうですけど(笑)。
まず感じたのは、テメラリオはミドシップのスーパーカーとしては、かなりコンサバな基本デザインだということです。フロントボンネットからフロントタイヤまでがひとかたまり。あとはその後ろ、ドアとリアまわりがひとかたまりになってる。で、さらにキャビンがぽこっと載っている構成で、かなりコンサバです。それとこのクルマ、ドア断面のショルダー部が結構丸まってませんか?
清水:そう! なんか「フェラーリF355」っぽいんですよ。
渕野:そういうところもクラシカルに見えました。ランボらしいシルエットですけど、基本的にはコンサバ。で、ディテールのほうは逆にすごくシャープに仕上げてる。六角形のフロントフォグランプみたいなのは、この手のクルマには珍しいDRL(デイタイムランニングランプ)ですかね?
ほった:ですね。確かにスーパーカーでこういうのは珍しいかも。
清水:下のほうにフォグランプっぽいものがあるのも、F355を思わせるんですよ。
渕野:そういえばF355って、丸いフォグが付いてましたね。そのDRLまわり、フロントバンパー左右の形が、ボディーサイドの開口部と反復してるようなグラフィックになっていて、そこが個性的といえば個性的かな。とにかく、基本的にはすごくコンサバだなというふうに感じました。
ミドシップのスーパーカーとして“普通”
清水:表情的にも、最近のスーパーカーとしてはとても薄味。ランボルギーニとしては信じられないぐらい薄味です。すごく優等生でしょう。これは本当にランボなのか……?? っていうくらい。
ほった:ランボはワルじゃないとねぇ(笑)。
清水:周囲の期待としてはね。だってランボなんだから! これの前の「ウラカン」は、とってもランボルギーニらしい形だったと思うんです。ベビーランボなので、ドアが上に開かなくて、そこは残念だったけど(笑)。
渕野:残念なんですか?
清水:コアなランボファンは、「アレはランボじゃなくアウディだ」って言ってましたね。全然違うものだって。なにしろランボルギーニは、ドアが命なんで(笑)。
渕野:個人的には、ウラカンはすごくいいデザインだと思ってたんですよ。これ、すごくわかりやすくて、プラン(俯瞰)で見てもかなり抑揚がついてる。
清水:前後をしぼってしぼって。
渕野:フロントからドアまでが一個で、その後ろにもう一個かたまりが付いてるっていう構成がすごくわかりやすくて、さらにリアはキャビンまで一体になってる感じですね。フロントからドアまでが1ボリューム、リアとキャビンが1ボリューム。めちゃくちゃシンプルなんだけど、すごく切れ味がよくて。個人的にはランボルギーニのなかで、「カウンタック」以来のいいデザインだなって思ってました。
清水:これでドアさえ上に開けば(笑)。
渕野:ドアの開き方はおいといて、だいたい今自分が話したようなのが、一般的なカーデザイナーの感覚なんです。でも清水さんの話だと、マニアの間では「ドアの開閉の違い」だけで、まったく認められなくなるんですね。
清水:まったくじゃないけど、本当の本物じゃないよ、みたいな感じですかね。日本って、世界的に見ても異常なほどV12の販売比率が高いんです。日本のランボファンは、本当に超コアなんですよ(笑)。それにしても、なんでちっちゃいほうはシザースドアにしないんだろうなぁ。そのほうがみんな喜ぶのに(笑)。まぁ商品の差別化でしょうけど。
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制約が多いスーパーカーのデザインの難しさ
渕野:ウラカンとテメラリオでひとつ「これは設計要件による違いなんじゃないか?」と思ったのは、サイドの開口部です。テメラリオはサイドに開口部がガッツリ開いてるのに対して、ウラカンは上と下にちょっと付いてるだけで、ドアはつるっとしてるじゃないですか。
清水:そうですね。ウラカンはフロントラジエーターなのに対してF355はサイドラジエーターだったので、テメラリオもサイドかな? って思ったら、フロントのままだそうです。サイドの開口部は、ハイブリッドシステムの冷却用に大きくしたのかな?
渕野:これはデザイン的にもかなり大きな違いなんですよ。テメラリオのデザインについて、設計から「サイドにでかい開口部が必要です」って言われたとすると、ウラカンみたいにつるっとした面で見せる表現はできません。そこらへんの要件の違いが、デザインにも表れてるんじゃないかな。
ほった:なるほど。
渕野:フェラーリの「テスタロッサ」とか「348」も、ドアを大きくへこませて、エアインテークへの流路をつくってましたけど、あちらはその部分に横桟を付けて、“面”を見せてたじゃないですか。あれってうまいやり方だったんだなって、あらためて感じました。
清水:そうか、あれは面を見せるためだったのか。新聞紙を吸い込んでラジエーターをふさがないためかと思ってた(笑)。
渕野:やっぱ、この手のクルマはサイドのデザインの“しばり”が大きいんですよ。だから、テメラリオもコンサバに見えるわけなんですけど……。あるいはレヴエルトみたいに、大胆に開口部で前後のデザインを切り離すみたいな、そういうイメージにするしかなかったんじゃないかな。その辺、難しいんでしょうね。「アヴェンタドール」はうまいことやってた気がします。
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ドアが上に開けばそれでいいのか!?
清水:アヴェンタドールからレヴエルトへのモデルチェンジも……なんて言うんでしょうねぇ。アヴェンタドールは、すっごくカッコよかったと思うんですよ。カウンタック的なシルエットをちゃんと保ちつつ、ランボルギーニらしいコテコテ感満点で、しかもフォルムがきれいじゃないですか。
渕野:結構きれいですよね。
清水:ウラカンもよかったけど、アヴェンタは傑作だったんじゃないかな。ランボのフラッグシップは、カウンタックの次がディアブロで、ムルシエラゴで、そしてアヴェンタドールですけど、アヴェンタはカウンタック以来の傑作だと僕は思ってました。……それだけに、レヴエルトのデザインは大変だったんでしょうけど。
ほった:傑作のあとは、だいたいそうですね。
清水:レヴエルトは、パカーンって顔を割ったりとか、サイドを割ったりしてお茶を濁したというか、ほかにやりようがなかったのかなっていう感じがしますね。ルックス的には、アヴェンタから少し下がったなっていう印象でした。乗ったら猛烈によかったですけど。
ほった:よかったですか。
清水:結局われわれって、乗ってよければそれで認めちゃうんだよね。デザインまでよく見えてくる(笑)。
渕野:うーん。……レヴエルトは、多分グラフィックが強いんですよね。フロントもそうだし、サイドもそう。ただ、それも“普通のカーデザイン”の感覚での意見なんですよ。
一般的なカーデザインの世界では、「グラフィックよりも面が強いほうがいいデザイン」っていうのが常識なんですけど、こういうクルマに関しては、そればっかりじゃないのかもしれないなって思ったんです。こういうのを実際に買う人たちって、「目立ちたい!」ってのが一番大きいでしょうし、やっぱりグラフィックも重要な差別化の要素なのかなと。自分はターゲット層じゃないのでなんとも言えないですけど、こういうクルマを買う人たちにとっては、どうなのかな。
清水:グラフィックよりドアでしょう(笑)。
ほった:ドレスアップカーのコンテストなんかでも、みんなドアがバンザイしてますもんねぇ。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=ランボルギーニ、フェラーリ、newspress、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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