第86回:激論! IAAモビリティー(前編) ―メルセデス・ベンツとBMWが示した未来のカーデザインに物申す―
2025.10.01 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
ドイツで開催された、欧州最大規模の自動車ショー「IAAモビリティー2025」。そこで示された未来の自動車のカタチを、壇上を飾るニューモデルやコンセプトカーの数々を、私たちはどう受け止めればいいのか? 有識者と、欧州カーデザインの今とこれからを考えた。
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大判小判を貼り付けただけでは?
webCGほった(以下、ほった):今回はですね、ミュンヘンで開催されたIAAモビリティーことドイツ国際モーターショーに、鉄槌(てっつい)を下したいと思います。
清水草一(以下、清水):ぶっ壊すのね!?
ほった:ぶっつぶすでも爆破するでも土に埋めるでも、なんでもいいですよ。(やけっぱち)
渕野健太郎(以下、渕野):ほったさんは、ぶっつぶしたいわけですか?
ほった:いやぁ。むしろおふたりには、「そんなことないよ!」ってこちらをボコってほしいくらいの気持ちです。素人目ですけど、そのぐらい救いがない印象でした。モノによっては「オマエ、見るも無残になり果てたな」ってなりましたから。
清水:世界に冠たるドイツ車デザインの凋落(ちょうらく)ね。
ほった:その感じ、清水さんもお察しというか同意のようですね(笑)。まずはメルセデス・ベンツから引導を渡しましょう。以前、欧州車のカーデザインを題材にしたとき(その1、その2)、渕野さんは「メルセデスだけは20年前からずっと進化している。デザインフィロソフィーの『芯』を感じる」ってお話をしてましたよね。そんなメルセデスの最新作がコレです。新型「GLC」。
清水:ギラギラの極致ね(笑)。
ほった:大上段に「メルセデスのフロントグリルを再解釈する!」とか言っといて、こりゃないでしょう。顔に大判小判を貼っただけじゃないですか。しかもこれ、光るんですよね。
清水:ビカーンと。
渕野:これについては、自分としてはフロントマスク単体というより、ほかとのバランスが気になりました。フロントとリアで違うクルマに見えるんですよ。
ギラギラ好きもこれはNO!
渕野:もともとメルセデスの一般的な車種は、グリルが横長だったじゃないですか。GLCも過去のはそうでしたよね。ところが今回、その輪郭がかなり縦に伸びて、写真で見てもグリルの圧がすごく強くなった。だったら他の部分はどうなんだろう? と思って見てみると、リアまわりは割とスポーティーでエレガントで、クーペっぽいんですよね。Dピラーをかなり傾斜させて、お尻もやや下がってるようなシルエットで。それに対して、グリルだけすごく絶壁感がある。
ほった:全く同感です。もう単に、よそからグリルを持ってきただけって感じがするんですよ。ボンネットのデコボコとかを見ても、フロントセクションとほかの箇所で造形に統一感がない気がしますし。「これがあのメルセデス・ベンツなの?」ってなっちゃう。
渕野:ボディーの後部が、例えば「GLS」とか「GLB」くらいの四角さだったら、全体のまとまりとしてわかるんですけどね。やっぱり、そこがアンバランスなので……。顔まわりの専門家である、清水さんの意見はどうですか?
清水:クルマの顔にうるさい私としてはですね(笑)、遅まきながらメルセデスもシングルフレーム化を果たしたわけですよ。そしてキラキラ電飾は、BMWの光るキドニーグリルの増幅版。私は、BMWの光るキドニーが大好きですけど、これはダメです!
ほった:あれ? そうなんですか?
渕野:清水さんでもダメ(笑)。
清水:これはあからさますぎる。ワビサビってものがない。
渕野:全員ネガティブなんですね。
清水:こういうクルマって最近なかったので、ちょっと興奮気味です(笑)。
渕野:清水さんとしては、グリルの輪郭が光るだけだったらOKだけど、これは面で光るからダメなんですか?
清水:そうです。輪郭だけなら「あ、BMWかな、BMWなんだろうな」っていう控えめさで、イマジネーションを刺激する部分がある。でもこれは道頓堀のグリコでしょ。
ほった:そのうち、歌舞伎町のネオンみたいに光が流れるようになるんじゃないですか?
渕野:いや。動画を見たら、すでに流れてるみたいですよ(笑)。
ほった:げぇ。
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一体感のあるインテリアとアンバランスなエクステリア
(3人で、光り輝くグリルの動画を視聴中)
ほった:えー……。多少、流れるみたいですね。
清水:リモコンキーに反応して、少し流れる感じかな? この程度じゃ甘いなぁ~。フルカラーでグリコが走りだすくらいやってくれれば、俺は絶賛するよ!
ほった:カニが踊ったりですか。
清水:自分の好きな動画が流せるとか。自動車デザインの新しい可能性が開ける!
ほった:スバラシイデスネ(棒読み)。ブルーノ・サッコも草葉の陰で喜んでいることでしょうよ。……これ、また欧州車信奉の皆さんは「狙いは中国市場だから!」なんて言って、かばうんですかね?
清水:中国勢はもうドイツ車よりよっぽどお上品になってるけどね。
渕野:今回、ドイツのプレミアムブランド御三家が、それぞれに新型BEV(電気自動車)を出してきましたよね。アウディはまだコンセプトの段階ですけど。とにかくBMWとアウディがグリルを小さくしたのに対して、メルセデスが真逆のことをしてきたのが興味深いですよ。
ほった:それぞれ賛否あるでしょうけど。
渕野:ほったさんは全部NGって感じですか(笑)。GLCについては、どこかになんらかの新しさがあれば違って見えたと思うんです。全体のデザインはこれまでの延長線上なのに、グリルだけすごく主張が強いところも、アンバランスに見える原因だろうなと。
ほった:普段の渕野さんの言葉を借りれば、グラフィックでごまかしてるってことですよね。
渕野:ほかに新しいところがないですからね。自分もこれには、ちょっとびっくりしました。ただ、内装はすごくいいなと思います。モニター画面をとにかくデカくしていますけど、全体としてきれいにまとまってる。写真を見ただけの段階ですけど。個人的には、エクステリアとインテリアで、やりたいことが違うんじゃないかなっていう印象です。
ほった:外見だけでもたいがいなのに、中と外でも、やってることがバラバラと。
清水:ていうか、個人的にはこういう横長のバカデカモニターにも食傷気味なんだけど。まだこっちを求めてますかねぇ、人民は。
ほった:人民がグリコやカニ道楽を求めてるなら、それも求めてるんじゃないですか?
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これが未来のBMWデザインだ!
ほった:じゃあ先を急いで、次は新型「BMW iX3」にいきましょう。
清水:「ノイエクラッセ」のSUV版の市販車版ね。
ほった:ですね。BMWは将来的に、パワートレインの種類を問わず全モデルにこれに準拠したデザインを取り入れていくみたいですよ。
渕野:コンセプトモデルの「ビジョン ノイエクラッセX」に関しては、以前に「ドアパネルのピークの位置と、前後のボリュームのピークの位置が違いすぎて、バラバラに見える」という話をしましたけど(参照)、この市販版では、ドア断面のピークがぐーっと上にきて、フロントとリアがちゃんとつながりましたね。ただ、これだと本当に普通のSUVですよね?
ほった:ですね。なんか、普通のクルマになっちゃった。
清水:顔だけノイエクラッセ。
ほった:しかもこの顔、ケツアゴなうえにドクロじゃないですか。グラサンしたドクロ。本当に、これがBMWのやりたかったことなのかなあ?
渕野:言わんとしてるところはわかります。
清水:下品だって言うのね。でもそんなにエグくないよ、これは。
ほった:下品とかエグいとかじゃなくて、そもそも電動化した未来のBMWのモチーフが、ケツアゴのドクロでホントによかったのかなと。ショーカーでも明示されてましたし、今更って話ではありますけど。
現行「X3」のほうがむしろ新しかった
渕野:私が気になったのが、全体の流れに対して、フロントまわりのボリュームが強すぎるんじゃないかってことです。フロントフェンダーもそうですけど、グリルも逆スラントになってるじゃないですか。結果として、ノーズのピークが高すぎる。なんかちょっと、ちぐはぐな印象です。
清水:確かに。なんかボンネット全体が一段高いような感じがしますね。これだったら、現行の「X3」のほうがバランスがいいし、新しさもあるんじゃないかなぁ。「駆けぬける庭石」で。
渕野:そう、X3はプロポーションで見せていたでしょう。プロポーション自体に個性があった。でもこっちは、そういう感じはない。
清水:X3のほうがノイエ(ニュー)ですね。
ほった:でもX3はキドニーが光るのがなぁ。まぁこのiX3も、どうせいろいろ光るんでしょうけど。
清水:それくらいいいじゃない! そんなこと言ってると、そのうち流れるカニ道楽に置き去りにされるよ!
ほった:結構ですとも! どうぞ勝手に流れ流れて、淀川から大阪湾に吐き出されればいいんですよ。
(後編へつづく)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=メルセデス・ベンツ、BMW、newspress/編集=堀田剛資)

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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