第10回:堅実だけど見直しは必至!? “大家族”ステランティスの電動化戦略(前編)
2021.08.10 カーテク未来招来 拡大 |
世紀の大合併によって誕生した世界第4位の巨大自動車グループ、ステランティス(Stellantis)。自動車を取り巻く環境が大きく変わろうとしている今、傘下に14ものブランドと部門を抱える彼らは、どのような戦略をもって未来に臨もうとしているのか?
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地に足がついた目標設定
スウェーデンのボルボ、フランスのルノーに続き、今回はステランティスの電動化戦略を取り上げる。webCGの読者にもはや説明は不要と思うが、念のため触れておくと、ステランティスは2021年1月にFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)とグループPSAが合併して誕生した自動車グループだ。同グループは、2021年7月に電動化戦略に関するオンライン説明会「Stellantis EV DAY 2021」を開催した。
発表の概略はこの後に説明していくが、ルノーに比べるとだいぶ現実的な戦略という感じがした。現実的というのは、「製品ラインナップの電動化については、2030年までにLEV(Low Emission Vehicle)の販売比率を欧州で7割以上、米国で4割以上とすることを目指す」としたことだ。LEVというと、広く解釈すれば排ガス中の有害物質の少ないエンジン車まで含むが、ここではHEV(ハイブリッド車)、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)を含めた電動車両ということになるだろう。
つまり、2030年までにすべての新車をEVにすると発表したボルボはもちろん、2025年に欧州市場での電動車の販売比率を65%以上に、2030年には(ダチアやアフトワズなどを除く)ルノーブランドのEVの販売比率を最大で90%に引き上げると発表したルノーと比べても、ステランティスの目標は控えめだ。むしろ、2030年に電動車両の世界販売台数を800万台(そのうちEV、FCVは200万台)にする目標を掲げた、トヨタ自動車の水準に近い。
14ものブランドを抱える一大自動車グループ
このほか、今回の「EV DAY 2021」で彼らが明らかにした内容は以下の通りだ。
- 現在9%以下の営業利益率を、2026年に2ケタ台にすることを目指す。
- 2025年までに、パワートレインの電動化とそれに関連するソフトウエアの開発に300億ユーロ(約3兆9000億円)以上を投資する。一方で、設備投資と研究開発コストの売り上げに対する比率は、業界平均よりも3割低くし、投資効率を高める。
- ステランティス傘下の全14ブランドでEVを投入する。
- EV専用プラットフォームを4タイプ開発し、3タイプのEDM(電動駆動モジュール)との組み合わせで、すべてのブランドとセグメントをカバーする。これらのプラットフォームは航続距離500~800kmを実現し、また1分で32km走行可能な量の電力を充電できる、急速充電を可能にする。
- 欧州と北米にバッテリー製造の大型工場「ギガファクトリー」を5つ設立し、2030年までに年間260GWhに相当するバッテリーを調達可能にする。
- バッテリーは、高密度・高エネルギーのニッケルをベースとしたタイプに加え、低コストなニッケル・コバルトフリーのタイプを2024年までに開発する。
- 2026年に全固体電池の搭載車を導入する。
……この発表内容を見て、そもそも「えっ、ステランティスって14もブランドあったっけ?」と思われた読者はいないだろうか? 恥ずかしながら、かく言う筆者はそう思ってしまったのだ。ここでその14ブランドを列挙すると、「アバルト」「アルファ・ロメオ」「クライスラー」「シトロエン」「ダッジ」「DSオートモービルズ」「フィアット」「ジープ」「ランチア」「マセラティ」「オペル/ヴォクスホール」「プジョー」「ラム」、そして(固有のブランド名はないが)ビジネスバンなどの商用車部門である。
いやはや、ブランド名の多さでいったら、世界最大の自動車グループではなかろうか。ここではいちいち記さないが、今回のイベントではそれぞれのブランドのキャッチフレーズまで発表したのだから、準備する側も大変だったろうと要らぬ心配をしてしまった。
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中国でのプレゼンス向上をオペルが担う
このキャッチフレーズのなかで、ひとつ気になるものがあった。アルファ・ロメオの「From 2024, Alfa Becomes Alfa e-Romeo」だ。文字通りに解釈すれば、アルファは2024年からEVだけのブランドになるように読める。ただし、今回のイベントではアルファというブランドがこれからどうなるのかという詳しい説明はなかったのだ。
逆に、今回のイベントで明確にEVブランドになるという方向性が発表されたのがオペルだ。2024年には電動化率100%に、そして2028年には100%EVのブランドになるという。その象徴として、往年の2ドアクーペである「マンタ」がEVとなって復活することも併せて伝えられた。イベントのなかで紹介されたマンタのコンセプトモデルを見ると、初代マンタのイメージでデザインされているようだ(2代目が好きな筆者としてはいささか残念だったのだが……)。とにかく、オペルブランドに関してはルノーと同様に、往年の名車をアイコンに掲げてEV化を推進するようだ。
さらに今回、ステランティスはオペルを中国市場にEV専門ブランドとして再参入させる計画も発表した。中国はEVやFCVを「NEV」(新エネルギー車)と位置づけ、補助金の支給やナンバープレートの優先交付などで積極的に普及を後押ししている。そこにEV専門となるオペルを投入することで、中国市場でのプレゼンスを高める狙いだろう。またオペルは、2022年上半期に日本市場に再参入する予定でもある。個人的にはオペル車を再び日本で見られるようになるのはうれしい限りだ。
グループ全体に見る戦略の統一感
ステランティスの戦略をルノーと比較して感じるのは、先ほど触れたように14ものブランドをカバーする巨大なグループであるにもかかわらず、戦略が全体できちんと統一されていることだ。
前回述べた通り、ルノー・日産・三菱グループでは「CMF-EV」プラットフォームは日産主導で開発し、搭載するバッテリーも中国エンビジョンAESCから調達。そのためにAESCは、フランス・ドゥエーにバッテリー工場を新設する。一方で、Bセグメント向けの「CMF-BEV」プラットフォームはルノーが開発を主導。バッテリーは韓国LGなどこれまでも同社のEVにバッテリーを供給してきたメーカーに加え、フランスの新興企業Verkor(ベルコール)との共同開発にも取り組むという。要するに、開発体制を見てもバッテリーの調達を見ても、グループとしての統一感に欠けるのだ。
こういうありさまを見ているから、グループ全体で使用するEVプラットフォームを4つに集約すると発表したステランティスの戦略は、全体として統一がとれているように見えてしまう。(次回に続く)。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=ステランティス/編集=堀田剛資)
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鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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