第91回:これぞニッポンの心! 軽自動車デザイン進化論(後編)
2025.11.12 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
激しさを増すスーパーハイトワゴン競争に、車種を増やしつつある電気自動車(BEV)、いよいよ登場した中国の黒船……と、激動の真っただ中にある日本の軽自動車。競争のなかで磨かれ、さらなる高みへと昇り続ける“小さな巨人”の意匠を、カーデザインの識者と考える。
(前編に戻る)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
スーパートールワゴンの仁義なき戦い
webCGほった(以下、ほった):「日産ルークス」を取り上げるなら、同時にモデルチェンジした兄弟車の「三菱デリカミニ」も忘れてはなりませんよ。
清水草一(以下、清水):なんか、もう一台いた気がするけど……。
渕野健太郎(以下、渕野):同じ車体を共用する日産ルークスの兄弟車が三菱デリカミニでしたけど、新型ではルークスに対して、ボンネットもフロントフェンダーも変えてきたみたいですね。(初代のデザインについてはこちらを参照)
清水:そうなんですか!?
ほった:フェンダーパネルは……ヘッドランプの“目じり”の部分が違うのか。どうせならフェンダーのカタチも変えちゃえばいいのに(笑)。
渕野:そうなんですよね。実際、ボディーサイドのデザインはおおむね共通なんですけど……。ただこれは、ルークスのほうが道具感がありますね。
清水さん:対するデリカミニは、完全に先代デザインのキャリーオーバーですけど、非常に強そうでカッコよくて、イメージを変えないでくれてよかったなぁって思います。一瞬、先代との見分けが難しいけど、よくできていますよね。
渕野:ただね、軽ハイトワゴン全体を見渡すと、やっぱり個人的には「ホンダN-BOX」(その1、その2)なんですよ。これが一番わかりやすい。
清水:ザ・定番っていうデザインですね。実際、ブランドイメージも超定番。
渕野:ただ、最近はN-BOXも以前ほど独壇場という感じではなくなってきましたね。「スズキ・スペーシア」とかがだんだん伸びてきて。……しかし、あのクルマの車内の機能性とかは、スゴい。
ほった:あれはもう、執念の世界ですよ。
清水:いやー、それでもイチバンはN-BOXだろうな。新型になって、ライバルより値段がプラス10万円になったのに、これだけリードを続けている。ルークスとデリカミニもほぼ同じ値段で出たけど、N-BOXの定番感にはかなわないよ。
ほった:でも、役者がそろって競争が激化するのは間違いないかと。
清水:ほんとすごいよね。世界の自動車業界でも、究極の機能性、合理性の戦いだよ。
ほった:軽スーパーハイトワゴンの争いは、すさまじい高みにあると。
清水:そう。天上界だね(笑)。
「ホンダN-ONE e:」をユーザーはどう見るか
ほった:なんかもう、ハイトワゴンとスーパーハイトワゴンだけでも延々話しちゃっていますけど、昨今の軽を語るには、これだけでは済まないんですよ。最近、このセグメントにも来てるでしょう。例の波が。
清水:BEVの話だね。
渕野:直近だと、まずは「ホンダN-ONE e:」ですね。航続距離が「日産サクラ」「三菱eKクロスEV」よりもだいぶ長い。
清水:約1.5倍!
渕野:そういう性能面がすごく注目されてますけど、デザイン的にもちょっと興味深いところがあります。フロントまわりが「N-ONE」と全然違う。
ほった:わざわざ変えてるんですよね。
清水:でも、N-ONE e:のデザインはあまりにも商用車みたいで、いまひとつだなぁ。
渕野:いや、意図はすごくわかるんですよ。できる限りシンプルにして、あえて高級感や質感を抑えている。サクラのほうはすごく高級感があって、大きなクルマをそのまんま小さくしたような質感があるのに対して。
ほった:それでいて、お値段はサクラよりN-ONE e:のほうが10万円ほど高いわけですからね。ベースグレード対決だと、269万9430円対259万9382円。
清水:性能を比べたら断然N-ONE e:なんだけど、イイモノ感がねぇ。
渕野:基となったN-ONEは、むしろ軽のなかでは質感が高いクルマだったんですけどね。私はN-ONEのデザインがすごく好きなんです。このデザインは、質感とかかわいらしさとか、すべてを併せ持っていると思うんですよ。
清水:そこまでですか!
渕野:ところが今回のN-ONE e:は、質感の部分を抑えて、あえてダウングレードしてきた。それに関して、お客さんが価格との釣り合いをどう判断するか? プロポーションに関しても、N-ONEのほうがオーバーハングが軽くてスラッと見えますし。
清水:ボンネットの形状が違うんですよね。N-ONE e:は水平寄りで真っ平。
渕野:ボンネットの角度も違うし、ランプの角度も違う。N-ONE より少し前のほうにボリュームがきている感じです。
清水:うーん……。見れば見るほど、サクラの内外装で中身がN-ONE e:ならベストだな! もういっそ、N-ONE e:のバッテリー積んでくれ~~っ!
ほった:そんなムチャな(笑)。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
精進料理か、デパコスか
渕野:サクラのデザインはよくできてるけど、N-ONE e:は航続距離が全然違う。でもやっぱりデザインとしては……。サクラってほんとに魅力があります。あれはいいですよ。あれでバッテリー容量がもっとあれば、もう全然そっちのほうがよくなっちゃうんだけどなあ。
清水:N-ONE e:についてはホント、デザインはN-ONEそのまんまでいてくれたらよかったのに。
渕野:同感です。
清水:N-BOXみたいな超シンプルテイストでそろえたかったんですかね?
ほった:単純に、機械類が収まんなかったんじゃないですか? N-ONE e:は充電口もフロントについてますし。だから、できるだけ内容量を稼げるカタチに、顔まわりをつくり替えた、みたいな。
渕野:ならしょうがない。
ほった:まぁワタシはおふたりと違って、N-ONE e:も憎からず思ってますけどね。N-ONEにはちょっと譲るけど、サクラに対しては負けてないと思いますよ。サクラは高級で上質で、やってることがフツーです。ワクワクが足りない。
清水:いやぁ、高級感好きのオレはメチャメチャひかれるな(笑)。サーモンピンクのサクラはすごくステキだよ。化粧品のパッケージみたいで。
ほった:伊勢丹でデパコスでもあさっててください。ワタシは断然、鉄チンホイールのN-ONE e: Gです。
清水:そういう高僧みたいなこと言うカーマニアっているよね。精進料理じゃお客は呼べないよ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
気になるスズキとBYDのニューモデル
渕野:でも、こうやって軽BEVがどんどん増えるのはいいことですよね。BYDもスズキも出しますし。
ほった:「BYDラッコ」と、スズキの「ビジョンeスカイ」ですね。ワタシはジャパンモビリティショーでスズキブースのステージに上がって、それはもう、ビジョンeスカイをなめるように拝見しました。で、いたく感服したんですけど……。清水さんがキャッチしたウワサだと、eスカイの市販版は次期「ワゴンR」と骨格が共用になるみたいですね(参照)。だとすると、あのままの姿かたちで発売! というのはムリかなぁ。それと、BYDのほうはスーパーハイトワゴンですけど、これ、走りというか商品としてのまとまりが、ちょっと気になりますね。
清水:なにか厳しいの?
ほった:以前、某国産メーカーの技術者さんから聞いたんですが、両側スライドドアで背の高いスーパーハイトワゴンをBEVにするのは、すごく厳しいんだそうです。重くなりすぎるっていうのと、床面にバッテリーを敷き詰めるから、低床化して室内高を稼いだり、シートアレンジのためのカラクリを仕込んだりするのが難しいとか。
清水:もっと背の高い「ホンダN-VAN e:」もあるし、大丈夫じゃないの?
ほった:まぁBYDのことだから、おかしなことにはなってないでしょうけど。
清水:デザインはまんま国産スーパーハイトワゴンだね。サイドは先代ルークスそっくり。
ほった:で、3代目「キューブ」の顔をくっつけた感じですか。これ、元日産の「デイズ」の開発責任者がBYDにいったんですよね? 日産日産してるわけだ。
清水:うん。テレビで見た見た。
ほった:BYDは日本の軽にずいぶん前のめりですけど、海外だと日本の規格そのまんまで軽自動車が走ってる地域もあるし(参照)、仮に日本でそんな売れなくても、BYDとしてはこれからいろいろ、発展の夢があるのかもしれませんね。
清水:あるかもね。ヨーロッパでも、ヘタするとあるかも。
ほった:ステランティスのジョン・エルカンさんも言ってましたよね。「欧州は日本の軽自動車のような、小型で安価な車両を開発する必要がある。日本に市場シェア40%を持つ軽自動車があるなら、欧州がそれに相当する『eカー』を持たない理由はない!」って。
清水:いまごろ気づいたのか(笑)。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
軽のデザインは輝いている!
渕野:その欧州版軽自動車というのは、フランスとかイタリアで今売られている、あのちっちゃいやつではなくて?
ほった:違います。あれとAセグメント車の間に入る、新しい規格ですね。まぁ現状はエルカンさんが思いつきを口にしただけで、検討もされてはいないでしょうけど。
清水:実現しても、なんだかんだで日本の軽よりだいぶデカくなる気もするね。
ほった:韓国の軽車(キョンチャ)も日本の軽よりデカいですしね。とにかく、これからは世界中で、地元密着型の軽自動車規格が出てくるのかも。
渕野:かもしれませんね。
ほった:最後はちょっとカーデザインの話じゃなくなっちゃいましたけど、最近の軽のデザインについてまとめると、どうなります?
渕野:いや、スゴいですよ軽は。日本独自の規格のなかで、めちゃくちゃ頑張ってます。バリエーションも多いし。
ほった:規格や規制が厳しいほうが、デザイナーさんが生き生きしてるように見えるんですが。むしろ今は、軽のほうがデザインが面白いというか。
渕野:日本人ですから(笑)。枠が決まってるほうが、「このなかでなんとかやってやろう!」みたいなファイトが湧くし、そういうのが得意なんですよ。ただ、今や200万円代も珍しくないという現状を見ると、ちょっと考えちゃうところはありますよね。
清水:しかしそれでも売れてるわけですよ。高くても軽のほうが便利だし、価値があるってことでしょう。実際、「ダイハツ・タント」に乗っててそう思います。これでターボが付いてて4WDで車載ナビ付きなら、万能じゃないかと。フル装備のデリカミニなら、300万円近くでもまぁいいか、みたいに思える。
ほった:登録車の安いヤツより、ですね。
清水:そうなんだよね。もはや軽は、ひとつのワールドだよ。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=スズキ、ステランティス、ダイハツ工業、日産自動車、本田技研工業、三菱自動車、花村英典、webCG/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第124回:「日産エルグランド」と「メルセデス・ベンツVLE」(前編) ―絶対王者に戦いを挑む、次世代高級ミニバンのカーデザイン― 2026.8.12 日産が新型「エルグランド」を発売し、海の向こうではメルセデス・ベンツが「VLE」を発表するなど、いまにわかに盛り上がりを見せている高級ミニバンのかいわい。新興勢力は王者「トヨタ・アルファード」の存在を超えられるのか? カーデザイン視点で考えた。
-
第123回:新型「日産キックス」とゆかいな仲間たち(後編) ―ライバル比較で浮き彫りになる日産デザインの底力― 2026.8.5 日産ひさびさの話題作となっている新型「キックス」だが、盛況なコンパクトSUV市場は競合ひしめくレッドオーシャン! ライバルと比較しても、キックスのデザインは埋もれない逸品と言えるのか? カーデザインの識者とともに、日産デザインの実力に迫る。
-
第122回:新型「日産キックス」とゆかいな仲間たち(前編) ―すべては計画どおり!? 物議をかもすフロントデザインの正否― 2026.7.29 日産が満を持して日本に導入した、コンパクトSUVの新型「キックス」。失敗が許されない量販車種だけにデザインはコンサバかと思いきや、実際にはかなり強烈な“顔”の持ち主だった。物議をかもすその容貌は確信犯の所業か? カーデザインの識者と考えた。
-
第121回:幽玄なるBMWアルピナ(後編) ―成功のためには美学を捨てろ? “優雅なラグジュアリーカー”の成否を考える― 2026.7.22 BMWのクルマをベースに、優雅で上品なグランドツアラーを仕立ててきたBMWアルピナ。BMWの傘下で再出発を切ったラグジュアリーブランドは、その美学を守り続けられるのか? オラオラ系がもてはやされる高級車マーケットでの成否を、カーデザインの識者と考えた。
-
第120回:幽玄なるBMWアルピナ(前編) ―日本でも愛された「控えめの美学」にこの先の未来はあるか?― 2026.7.15 日本でも、ファンの間で熱く支持されてきたBMWアルピナ。創業家の手を離れ、BMWの傘下となったこのブランドだが、その伝統である「控えめの美学」は今後も受け継がれるのか? ショーカー「ビジョンBMWアルピナ」の造形から、カーデザインの識者と考えた。
-
NEW
トライアンフ・トライデント660(6MT)【レビュー】
2026.8.15試乗記英トライアンフのミドル級ネイキッドスポーツ「トライデント660」が、大幅に進化。エンジンを強化し、フレームやサスペンションを見直すなど、全方位的に走りに磨きをかけてきた。速さと乗りやすさを同時に追求した一台の、ライドフィールを報告する。 -
NEW
目指すは究極の走りと官能性 「ランボルギーニ・レヴエルトSV」の核心をキーマンが語る
2026.8.15デイリーコラムランボルギーニが「レヴエルト」の進化モデル「レヴエルトSV」を発表。強力なV12エンジンとプラグインハイブリッドシステムを搭載したフラッグシップは、いかなる進化を遂げたのか? V12モデルのディレクターを務めるキーマンが、その核心を語った。 -
ボルボのフラッグシップ電気自動車「EX90」が上陸 軌道修正された電動化戦略の今を探る
2026.8.13デイリーコラムボルボのフラッグシップ電気自動車(BEV)「EX90」と「ES90」が日本に上陸。2030年までに完全BEVブランドになるという目標は軌道修正したが、2040年までに温室効果ガス排出ゼロ企業を目指す方針に変わりはない。ボルボの電動化戦略の今を探る。 -
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う
2026.8.13マッキナ あらモーダ!ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。 -
「スバルBRZ」が採用した「新しいシフトレバー構造」とは何か?
2026.8.12デイリーコラム2026年7月31日に発表された「スバルBRZ」の最新モデルでは6段MTへの「新しいシフトレバー構造」の採用がうたわれている。すでに熟成し切った技術のように思われるマニュアルトランスミッションだが、2026年にもなってどんな構造を取り入れたのだろうか。スバルに聞いてみた。 -
第124回:「日産エルグランド」と「メルセデス・ベンツVLE」(前編) ―絶対王者に戦いを挑む、次世代高級ミニバンのカーデザイン―
2026.8.12カーデザイン曼荼羅日産が新型「エルグランド」を発売し、海の向こうではメルセデス・ベンツが「VLE」を発表するなど、いまにわかに盛り上がりを見せている高級ミニバンのかいわい。新興勢力は王者「トヨタ・アルファード」の存在を超えられるのか? カーデザイン視点で考えた。























































